【静かな有事】第3部 逆転の発想(5)共生できるか「外国人労働者」
「単純労働も認めるべきだ」「本格受け入れするしかない」−。高齢者や子育て期の女性の就労が進んだとしても、労働力人口の減少は避けられない。解決策として必ず話題に上るのが外国人労働者だ。
「いすに座りますか?」
横浜市鶴見区の特別養護老人ホーム「新鶴見ホーム」で、歩行介助するインドネシア人女性のダンタさん(29)は素早く腰に腕を回す。入所者の目をみつめ、話に耳を傾ける。
日本とインドネシアの経済連携協定(EPA)に基づく介護福祉士の研修生だ。1年がたち1人で介助を任されている。入所者の家族らには言葉や文化の違いによる戸惑いもあったが、いまは「よくやってくれる」と評価は高い。
介護分野の労働力不足は深刻だ。新鶴見ホームが研修生2人を受け入れたのはノウハウを培うため。堀江昭正所長は「介護マインドがあるかが重要。国籍ではない。よい介護士なら雇いたい」と語る。
介護現場の問題は、やがて多くの職場の課題となる。
法務省入国管理局によると、就労・就学などで滞在する外国人登録者数は約222万人(平成20年末)。厚生労働省の調査では昨年10月末の外国人労働者数は56万2818人だ。日本は外国人労働者を専門的・技術的分野で認めているが、日系人や研修・技能実習の名目で、低賃金の単純労働も少なくない。
17年版通商白書は、ピークの生産年齢人口の維持には今後20年間で1800万人の外国人労働者が必要とはじく。日本経済団体連合会は一昨年、この試算を取り上げ移民政策の本格検討を求めた。自民党や民主党には「移民1千万人受け入れ」論者がいる。
だが、話はそう単純ではない。外国人は「若く安価な労働力」ではなく、人間なのである。
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「6人に1人が外国人」という町がある。群馬県大泉町だ。町民4万1469人に対し、日系ブラジル人を中心に外国人は6424人。国道沿いには外国語の看板が目立ち、外国人学校では子供の声が響く。多くは大手メーカーの下請け企業の人材不足を補う。
夜中に屋外で立ち話。指定日を守らないゴミ出しには苦情が相次ぐ。だが、立ち話は母国では日常の光景。ゴミ出しも「使わない物を出しておけば、他の人が使える」との言葉が返ってくる。町西部の地区長を6年間務めた阿部忠彦さん(68)は「民族性の違いは大きい」と振り返る。
生活ルールの周知には困難が伴う。日本では外国人の在留要件に日本語能力がない。町が昨年行ったアンケートで34・2%が「通訳なしで日本語ができる」と回答したが、それも自己判断。勤務先では通訳がつく。町は外国語の広報紙を発行し懇談会も開くが、仲間意識の強い外国人の動きは鈍い。社会保険に未加入の外国人の医療費は、町が県などと負担する。
町広報国際課の加藤博恵さんは「外国人は生活者でもある。地域に戻ったときに誰がどう対応するのか。企業だけでなく国民全体の問題だ」と困り顔だ。
外国人労働者問題に詳しい関西学院大学の井口泰教授は「外国人労働者の受け入れ拡大には日本社会に取り込む政策が必要。外国人にも自分たちだけの社会をつくるのではなく、日本社会に溶け込む努力が求められる」と指摘する。
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「孫や子のことを考えていない。極めて無責任だ」と批判するのは、政策研究大学院大学の松谷明彦教授だ。「外国人労働者が年を取り日本に定住したらどうするのか。無限に入れられるわけでもない。どこかで受け入れをやめなければいけないが、日本人が減るところに外国人もぐんと減れば、すさまじい経済の縮小が起きる」と警告する。
戦後、奇跡の復興を果たしたドイツは高度経済成長期に労働者不足を補う目的でトルコ人らの外国人労働者を受け入れた。だが、受け入れ停止後も定住化したトルコ人が独自のコミュニティーを形成し、トルコ人が多くを占めた学級ではドイツ語の授業がままならなくなるケースが出るなど社会問題になった。
政府・民主党は永住外国人への地方参政権(選挙権)付与の法制化を進めようとしているが、日本人が少数派となる地域が出れば国益や安全保障を損なう恐れもある。
単純労働の門戸開放には「職を奪われる」「賃金水準が下がる」といった日本人側の警戒感も強い。一方で、外国人が労働力の「調整弁」として使われるとの問題もある。世界同時不況後、再就職を断念し帰国した外国人は少なくない。
どういう人を、どこまで受け入れるのか。議論は日本の将来像を見据えなければならない。国民のコンセンサスなしに進めれば、混乱ばかりが広がる。
=第3部おわり
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この連載は、河合雅司、宮下日出男、桑原雄尚が担当しました。
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