きょうのコラム「時鐘」 2010年2月15日

 城の石垣が最も美しく見えるのは「雪の季節である」と作家の井上靖氏が書いている。雪は石垣を隠すのではない。石の輪郭を浮かび上がらせるのである

石川県が金沢城の石垣を隠している樹木を間引きするという。簡単なようで難しい課題である。街の緑を守れとの声も無視できない。だが、樹木は石垣の大敵だ。根っこや枯れ葉が水はけを悪くし崩壊を早めるからである

先日、金沢で石垣フォーラムが開かれた。切石を幾何学状に積んだ金沢城玉泉院丸の「色紙短冊積(しきしたんざくづみ)石垣」が焦点になった。美術品とも呼べる類例のないパノラマ状石垣誕生の秘密に迫る注目すべき会となった

加賀藩が徳川大坂城に築いた石垣と短冊積みが似ていること(意匠比較)。江戸城天守台の石垣工事を担った加賀石工の技とも共通すること(技術拡大)。さらには戸室石の特性にあるとの見方(素材論)、美的センスのある藩主の存在(リーダー論)の、四つが要点である

どれも樹木を間引きして初めて分かったことだ。木々の伐採や移植は石垣を守り美しく見せる重要な作法である。城郭整備が進む全国共通の課題だろう。