頭を下げるしかない。トレードマークのドレッドヘアとひげはそのままだが、白と紺色の日本選手用のスポーツウエアを乱れなく着た国母が、一礼した。バンクーバー市内のジャパンハウス(日本選手団の支援施設)で行われた会見で、波紋が広がる服装騒動に対し、再び謝罪した。
「いろいろな方々に、ご心配と、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。応援してくれた方々に雪の上でいい滑りができるようにがんばります」と頭を下げた。2日前の会見でつけていた自慢の鼻ピアスはなく、姿勢を正して腰掛けた。
今回の騒動は、国母が9日に成田空港から出発した際、選手団の正装である日の丸付きのジャケットを着ていたが、ワイシャツのすそをベルトの外に出し、スラックスは腰骨下まで下げてはく、いわゆる「腰パン」だったことが問題化。報道で知った人々から、全日本スキー連盟(SAJ)に多くの抗議があった。さらに、それを受けた国母の会見(10日)では「反省してま〜す」と語尾を伸ばす口調で対応。日本オリンピック委員会(JOC)にも出場をやめさせるべきとの苦情が相次いでいた。
SAJは11日、国母の競技出場を辞退させる意向をJOCに伝えたが、橋本団長は待ったをかけ、JOCから「団長一任」を取り付けた。そしてこの日、国母と約30分間、面談。大会出場を熱望する国母の意をくんだ同団長は「選手団長として、わたしがすべての責任を負う」という条件で、国母の出場を決断した。開会式出席をやめさせた理由は、「公人でありすべてに規律ある行動を行う」とする選手団の行動規範に違反した、とした。
スピードスケート、自転車の選手として夏、冬合わせ7度五輪に出場した経験を持つ橋本団長は「子どもに夢を与えるのが(国母の)最大の仕事。競技をしないで帰国することは逆に無責任になる」と、選手の立場になってチャンスを奪わなかった。聖子団長の“大岡裁き”で、事態の収束がはかられた。
もっとも、国母は報道陣から質問を受けてもすぐには言葉が浮かばず、隣に座る橋本団長の様子を再三、うかがった。まるで07年12月、牛肉産地偽装などの不祥事が発覚し、会見の席上、おかみが返答内容を小声で指示し、長男がオウム返しにした「船場吉兆」の謝罪会見のようだった。
汚名返上。競技は17日(日本時間18日)に予選と決勝が行われる。昨年の冬季ユニバーシアードの2種目で優勝するなど五輪でもメダル候補。国母は「何も変わらず自分の滑りをするだけ」。雪上で「オレ流」を貫き、“温情”に応える。(恵濃大輔)