■ハウステンボス “千年都市”理念は揺るがず

3.新しい取り組み
  開園10周年をフックに実施展開


○「本質の伝達&経験そして感動の普及」
 新しい事業コンセプト「Heartful Town(ハートフルタウン)」命名に伴い、経営基盤強化のためのマーケティング再検証と、具体的な施策づくりを集客事業中心に進めて、準備が整い次第、平成13年(2001)から次々に実行へと移している。
 それらの内容は、『ハウステンボス本質の伝達&経験そして感動の普及』に総括できよう。つまり、テーマパークばかりが喧伝され、本来の町づくり哲学が省略されたまま生活者に伝わってしまい、ここに最近の不況事例報道によるイメージの悪化が加わり、すっかり本質が誤解されたことで本質=本物であればカネをかけるのをいとわない生活者が遠のいてしまった。そこで、ハウステンボスの本来が再認識されるように、本質の存在をアピール、体験をしてもらう。実際、本質が伝わると、毎シーズンあるいは毎月のリピート客が登場しているという。
 まさに、感動を広告効果に転化させる"構造改革"に突き進んでいる最中なのだ。
 以下、現況を踏まえながら、その内容について報告する。

(1)ターゲットの再規定
 女性+ファミリー、カップル、グループ


 「来場意向調査」や各種統計を再度クリーニングして、具体的なターゲットプロフィールを規定した上で、エリアマーケティングの視点から商圏の確認と具体的な展開策を示した。
 まず、プロフィールは、来場実績・意向調査結果から「女性」をキーワードに、「子ども連れのファミリー」、「夫婦・カップル」、「女性グループ」となった。男性グループや団体、個人(そんなパターンもあるのだろうか)がはじかれただけで、現実に沿った再規定ともいえる。


○エリア別に集客方針を設定
 一方、ターゲットエリアは、「東京・大阪・名古屋など大都市を中心とした全国からの旅行圏」、「九州を中心としたレジャー圏(日帰り・一泊)」、「アジア(台湾、香港、韓国、中国及び東南アジア諸国)」が規定され、それぞれのエリアに対しての具体行動として、「国内大都市旅行圏」→積極的な情報発信、「九州を中心レジャー圏」→リレーションシップの強化、「アジア」→営業力の強化が示された。

1)国内大都市圏への積極的な情報発信
 同社の調査であっても「ただのテーマパーク」としての認知、特に首都圏ではハウステンボス自体「何それ?」の状態で、特に男性は興味なしの状態である。
 そこで、『ハウステンボス本質の伝達』を広報宣伝のベースに、ターゲットプロフィールの女性にヒットする内容で、マス媒体に限定せずあらゆる手段を使った情報発信を2001年暮れからスタートさせている。例えば、2002年春の「チューリップ祭」では、テレビコマーシャルと並んで、交通広告(電車内の中吊りや駅貼りポスター等)が選択されている。まだ足を踏み入れていない層へ、本質の認知を優先していく。


2)リレーションシップの強化
 
地域との一体、地元密着をさらに強化する(詳細は後述)。


図6 2002年春の『チューリップ祭り」
告知パンフレット


3)アジアへの営業力強化
 東アジアを中心とする外国人旅行客が多いのがハウステンボスの特徴で、平成12年(2000)には56%・124,000人が台湾、香港26%・57,000人、韓国が30,000人・14%、その他10%・10,000人となった。当初はツアー団体が多数を占めていたが、現在は個人客も増えている。今後は台湾をメインターゲットにした呼び込みを強化する。中国語圏からの旅行者は、日本でいう旧正月の前に休暇をとって来日するパターンがあり、これがオフシーズンにあたる1月の落込の抑制につながるといった来園効果があるのだという。

グラフ3 入場者数の年代別比較

グラフ4 海外客の国別比較


(2)3つの活動プログラム

 ターゲットの明確化を踏まえ、具体的な施策として「対話(Customer Dialogue Systems)」、「実行(Commitment100)」、「連携(Value-up Alliance)」を示している。そして、開業10周年にちなんで「Welcome 10」と称して平成14年度(2002)いっぱいに展開する『10周年記念アニバーサリーキャンペーン』から、さっそくの具体化を図っている。やたら活動目標に横文字を使うのは経営コンサルタントか広告代理店のプランナーの影響かもしれないが、説明がないとわかりづらいので、以下で通訳しておく。
 これらの策定にあたっては、オープン以来9年間分の「来場者アンケート」の内容を再チェックして、マーケティングの公式通りに、顧客から見た自社の強みと弱みをあぶり出し、プランニングの前提認識としてスタッフ全員が共有した。

 強み:ゆとりのある空間、美しい景観、スタッフの対応 等 
 弱み:場内が広く移動に混乱、硬直した営業時間 等


1)対話(Customer Dialogue Systems)
○メルマガ発行でモニターづくり


 ロイヤリティ・マーケティングの実践環境を整備するために、会員制度によるファンの囲い込み、いわばサポーターづくりを進めようという内容である。会員の意見や提案を日頃から積極的に汲み上げて、実際の運営に反映させる、お客との「対話」を意識した。
 一般的に自社顧客等にアンケート等を実施すると、反応として戻ってくるのは不満か批判がほとんどで、お褒めの言葉はあまり返ってこない。仮にあったとしても、『よかった』『満足した』など、具体性に欠けるコメントが多数を占める傾向にある。そこで、「お客様の本音」を得るためには、お客様がそのように感じた瞬間を逃さず、コミュニケーションできる仕組みやシステムが必要になる。

 また、そこに表れた内容を、個別案件として技術的に解決しようとすると、本質に潜む課題が検証されず、ピンボケの対応に終始してしまうリスクがある。

 前者については、インターネットの積極的活用で対応する。そのため、10周年を機に、6名のスタッフを専任させてホームページの大幅にリニューアルを行った。既に携帯電話ですぐにメッセージを送れる時代だから、モバイルマーケティングへの対応が望まれるのだが、それは次のステップとして、まずは「メール会員制度」を導入し、意見収集に努めることから始める。
 入会はホームページメールマガジン「Huis Ten Bosch Navigatie(ナビガーティ)」を申し込めばよい(無料)。会員限定のお得な宿泊プランや最新情報を、電子メールで毎週金曜日に発信する。さらに会員だけがアクセスできる専用ページを用意し、壁紙・スクリーンセーバーのダウンロードサービスや、バックナンバー、お料理レシピ、読者おすすめ情報などが写真入りでチェックできる。同時にここで、モニターとしての情報発信を依頼するわけで、平成13年(2001)末の段階で30,000人の登録がある。

また、ハウステンボス及び「長崎バイオパーク」への入場が年間フリーパスになる他、様々な特典・サービスが付く有料制の「モーレンクラブ」(モーレン:風車)のメンバーと積極的にコミュニケーションを図り、潜在ニーズ等を把握していく。
平成13年(2001)末の段階で50,000人が入会しているが、会費の引き下げ(1年有効:大人12,000円→3年12,000円)を行い、メール会員ともども平成14年度末(2002)までに100,000人の入会を図る計画だ。


図7 公式サイトの「ナビガーティ」募集画面


図8 「モーレンクラブ」募集強化(パンフレットより)

 さて、後者(指摘を受けた課題の解決)については、組織を横断しての情報共有と課題解決を図るマーケティング担当として、「総合営業推進部」を新たに設置。正確性と迅速な対応を進めている。
 この他、従来からの「来場者アンケート」やホテルの「ゲストカード」からの情報収集を継続する他、実際に接客応対に当たっているスタッフからの情報も加えて、直接・間接のコミュニケーションを活発化させていく。

2)実行(Commitment100)」
 大別して5つの具体行動を示している。

a.ゾーニングのリニューアル
 ハウステンボスの都市構造は、オープン以来ほとんど変化がない。また、新しい街区を作る場合でも、まだ用地に余裕があるため、既存の街区がリプレースされる可能性はまったくありえないという(もちろん、これほどのクオリティ再現はコスト的に難しいのだろうが)。そこで、町の化粧直しは、主に既存空間や施設の中身の充実に向かうことになる。その手始めが、わかりやすいネーミングで、ゾーニングを細分化。その上で入場者の動線を明確にするため、"大きく日本語で表記した案内サイン"を設置する。これらは、「来場者アンケート」における「場所がわかりくい」「迷う」等といった指摘に応えた施策でもある。


図9 新しいゾーニング(公式サイトより)


ゾーン 地区名称 特徴
花のゾーン ブレーケルン(入出国口)、キンデルダイク(風車と花畑) 花に溢れたゾーン
テーマパークのゾーン ニュースタッド(スリルと冒険) 展望バルーン、アミューズメント中心
博物館のゾーン ミュージアムスタッド(知的に遊ぶ) 世界中の文化に触れる
街のゾーン ビネンスタッド(ショッピング街)、ユトレヒト(世界のレストラン街) ショッピングモールやカフェ、子供広場
(新しく設定)海・夜のゾーン スパーケンブルグ(港町・海の入出国口) 海の展望や夜の賑わいを楽しむ
(新しく設定)森のゾーン フォレストパーク(105万戸の別荘風コテージ)、パレス ハウステンボス(オランダの宮殿) 宮殿を中心とする緑のゾーン
表 新しいゾーニングとその訴求:従来の4から6へ細分し、わかりやすいネーミングを付けた

b.施設のリニューアルオープン

 ゾーンのコンセプト、地区の特徴と施設業態の予定調和を一歩進めて、再規定したターゲットプロフィールのイメージに合わせるようにしたリニューアルを、シーズン毎に行う。


c.アクセスの改善
【場外】

ア.福岡空港直行バス
 首都圏、関西圏、中部圏からの誘客を図る場合に、最も便数が多く、九州各地へのアクセスに利便で現地滞在時間が確保しやすい福岡空港との直行バスを用意した。ただしハウステンボスへの宿泊者に限定される。福岡空港からハウステンボス間を片道105分(1時間45分)で、1日2往復している。運行は子会社の「ハウステンスボス観光(株)」が担当する。

イ.JR利用者向け「バゲージカート」設置
 ハウステンボスのオープンに伴い、JR九州は早岐駅からの大村線に「ハウステンボス駅」を設置して、わずか1駅間を電化し、福岡駅からの直通特急「ハウステンボス」の乗り入れをスタートさせた。











図10 JR九州の特急「ハウステンボス」



さらに「ハウステンボスウィークデースペシャルきっぷ」や「ハウステンボス割引きっぷ」等の企画商品を販売している。残念ながら、ハウステンボス駅はメインゲートから離れており、手荷物が多いと積極的には運ぶ気になれない。そこで、手荷物運搬用の手押し式カートを、JRハウステンボス駅をはじめ、ハウステンボス入国口、ハウステンボスジェイアール全日空ホテルなど6カ所に設置し、快適性を高めている。

【場内】
 「広すぎて移動がたいへん」との指摘に応えて、「1日パスポート」「リゾートパスポート」購入者に限り、場内バスへのフリー乗降が平成14年度(2002)から可能になった。
 また、有料レンタサイクルも用意して、自由な周遊で楽しめるように配慮した。

d.料金の設定の見直し

○子ども連れファミリーを意識して入場料引き下げ
 平成13年度(2001)から入場料の改訂を行い、大人料金は4,200円から3,200円への引き下げを実施した。また、ホテルの宿泊料金も各種宿泊プランの提供による弾力化を図るとともに、宿泊者対象のハウステンボスへのおトクな入場券も用意された。これは、景気低迷を受けたデフレ対応もあるが、ターゲットプロフィールの再規定に対応して、「子供連れのファミリー」の負担を軽減して来場の活性を図ろうという狙いがある。また、宿泊客と日帰り客では、後者のコストパフォーマンスの評価が小さいため、そのCSを高めようとする意図もある。実質の値下げ効果もあり、最近の傾向として、宿泊利用は1泊中心から1.5泊、そして2泊に伸びる傾向になっている。


図11 カートを常設(公式サイトより)






○「モーレンクラブも値下げをアピール
 さらに、「1日パスポート」や17時以降の入場に適用する「ムーンライト入場チケット」や「モーレンクラブ」などの積極的訴求によって、ホテルの宿泊を含め地元利用を促進する。「モーレンクラブ」についても、年間で大人12,000円、ジュニア7,500円を新規会員が大人7,000円、ジュニア5、000円、更新会員が大人6,000円、ジュニア4,000円にそれぞれ値下げ、また新たに3年間コースを設け、大人12,000円、ジュニア7,500円としている。(なお会員は入場のほか、園内の美術館や運河のクルーザーなどが無料となり、長崎バイオパーク(西彼町)へも入場できる)。

e.ブライダル事業の強化

○ハネムーン一体のリゾートウェディング訴求
 ハウステンボスの空間ポテンシャルを代表するのが、4つのリゾートホテルである。オープンした頃など、「ホテルヨーロッパに泊まる」など、筆者の経済状態(フリーでした)からして夢のような話で、専門誌の写真と施設紹介を見ながら「このクオリティならしょうがない」と"納得して諦めていた"。それから10年、経営環境の変化で以前のような衝撃的プライスはだいぶ庶民的になってきたとはいえ、実際のホテル空間の雰囲気や品格といったものはほとんど変わっていない。同じように、欧州の伝統と文化を建築に再現した「グリュック王国」(北海道・帯広市、詳細は本誌記事参照)の看板・シュロスホテルとは雲泥の差である。これは、ホテルにいつも賑わいがあることと、利用者の満足感が生む、いい意味での「気」が空気を支配しているからと思われる。



図12 (上) 「モーレンクラブ」会費値下げをアピールするパンフレット (下)園内には「絵になる」場所が多く、ウェディング獲得の強力な訴求点(公式サイトより、イメージ)

○99年から式場・美容室を整え本格誘致
 そんなことを同社も感じていたのかは不明だが、平成10年度(1998)からハネムーンを兼ねた旅行型リゾートウエディング事業に取り組み、平成11年(1999)は式場ほか美容室も整備。ブライダル需要の獲得に本腰を入れてきた。その甲斐あって、結婚式は平成10年度(1998)235組、翌11年度350組、翌12年度477組、翌13年度は650組を見込むほどの堅調ぶりを見せている。その70%は九州以外からの依頼だという。
 ただし13年度(2001)の数字は米国テロ事件の影響で、「安全で、外国の雰囲気を持つハウステンボス」の選択が増えたことによるオプションと見ている。
 今後は、"リゾートウエディング"をアピールして、平成16年度(2004)までに年間1,000カップルの挙式を実現する。そのための商品として、「オリジナル・ヨーロピアンリゾートウェディング」として、7つの挙式スタイル、披露宴の選択が異なる3つのウェディングプランを提案している。
 いずれも、「来場者アンケート」で評価の高い「ゆとりのある空間」「美しい景色」が体感できる場所を選び、その雰囲気に合致した挙式ストーリーで構成されている。こうしたバリエーションを作れるのも、ハウステンボスが町としてのさまざまな景観(しかも異国情緒に溢れた)を持ち、しかも本物のクオリティを示しているからである。


○70%が九州外の遠隔からの重要、電子メールを駆使
 なお、ウェディングは事前に当事者との細かい打ち合わせが必要となる。しかし7割を越す遠隔地のカップルとは対面での打ち合わせに数を重ねることができない。かといって、電話だと曖昧さやスタッフの時間効率が低下する等の問題がある。そこで活用されているがインターネットで、事前のコミュニケーションはほとんど電子メールでやりとりするという。また、実際に挙式を行ったカップルを、ホームページのウェディングのページで紹介している。
 その意味でも、オフィシャルホームページの強化、ネット利用を前提とするメンバーシップの導入が急がれたのである。

3) 「連携(Value-up Alliance)」

a.地元密着

○地元外集客が半数、地元・長崎はわずか1割
 入場者をエリア別に比較したのがグラフ5である。このように、九州以外からの来訪が5割を超えている一方で、地元長崎はわずか1割強に止まっている。つまり、景気や社会情勢の影響を受けやすい遠隔の大都市からの需要に依存しながら、地元とは「カネを生んでくれる町」程度の認識でやや距離を置いた関係にあったとも見える。
 経験的に、地方のテーマパークなり集客施設を取材する際に、地元の人に「あの?○○○ってご存じですか」と訊ねると「知っている。でも自分には関係ない」等といった答えが返ってくることが多い。まったく浮いた存在になっている。だから地元が一体になってお迎する姿勢などは夢物語。結局、施設の入込も増えず、政治問題化する。

○地元との親和を掲げて、来場体験を促進
 こうした状況をハウステンボスも恐れたのだろうか、また経営陣が変わり、町づくりと地域の関係を柔軟かつ広範に捉えられるようになったのか。あるいは、地元に愛される町になることが、本質を突いた情報受発信を定着できる最良の仕組みであるとの認識からだろうか、佐世保・長崎から九州までを地元エリアと位置づけて、ハウステンボスを経験しそして親和してもらう「地元密着」を、前述の利用料金体系への反映と、各種プロモーション等で積極的に推進している。











グラフ5 エリア別来場状況







b.観光インフラとの連携

 これまで、ハウステンボスは都市の自立を目指すが故に、周辺のいわゆる観光地との連携には冷淡であった。そうした批判に対して、平成9年(1997)に旅行代理店「ハウステンボス観光」を設立し、県内の他の観光地との連携にも配慮するようになっていた。
 今後は、より積極的に地元や九州の観光施設、温泉などと連携して、「ふれあい」「やすらぎ」「あたたかみ」を感じる新しい旅の提案を行っていく。
 平成14年(2002)のハイシーズンは、「ロマンティック・デイ・トリップ」と銘打って、同園を訪れた観光客に長崎市内、雲仙温泉、九十九島など長崎県内の観光地を紹介するチャーターバスまたはタクシー利用のツアーを実施している。


図13 「ロマンチック・ディトリップ」の紹介リーフレット
C.ボランティア参加促進
 
○熱心なサポーターが参加した「フリーント」
 来場者の案内や通訳、写真撮影の手助けをするボランティアを組織化している。オランダ語で"思いやり"や"介護"を意味する「フリーント」と呼んでいる。平成13年(2001)、「モーレンクラブ」の会員を対象に募集したところ、予想外に多数の応募があったという。そこから"超ハードリピーター"ばかり、年齢も20?70歳代と幅広い地元の男女80名を登録した。専用のユニフォームのブルゾンに腕章と身分証明(ID)カードを付けて、週に1?5日、1日約5時間活動する。平日は一日平均5人、週末は10人が参加している。
 活動は園内や美術館の案内、写真撮影の手伝いのほか、通訳、障害者の介助、手話などで、いつでも声を掛けることができるよう動的待機を心がけている。




図14 「フリーント」(左の女性)。写真撮影の手伝い等


d.エコロジープロジェクト

○初期事業費の40%は環境マネジメントに投資

"伝達系障害"によって、多数の人がテーマパーク、あるいは観光地としてハウステンボスをイメージするようになってしまった。そんなことから、「環境未来都市」ハウステンボスの本質は、それほど知られていない。
「エコロジーとエコノミーの調和」を目指して、20年間放置されたままの工業用埋立地の土壌、水辺を生態系が蘇るように改良し、そこに約40万本の苗木を植栽する。また、大村湾に一滴の汚水も流さないように、排水を再利用した中水道システムと海水淡水化プラントを建設。さらに、コ・ジェネレーションによる地域冷暖房を加えた。もちろん、発生するゴミは分別され、可能な限りリサイクルされる。初期事業費の40%にのぼる約600億円を投入し、このようなインフラをすべて自前で整備。平成14年(2002)2月、テーマパークとして初のISO14001(環境マネジメントシステムの国際標準)を取得した。また10年にわたり、豊かな環境づくりを積み重ねてきた結果、環境省のレッドデータブックで絶滅危惧種として指定されたワシタカ目ハヤブサ科のハヤブサ、チョウのコムラサキが園内に住み着くようになったことなど、テーマパーク破たん狂騒曲の前にほとんど知られていないだろう。

○全従業員が参加する「環境文化研究所」
また、オープンの2年後の平成6年(1994)には、「ハウステンボス環境文化研究所」を設立。自らの実践成果を独占するのではなく、得られたノウハウ等を行政や教育機関とコミュニケーションを図り、積極的に普及・啓発を進めている。この研究所は池田武邦所長以下、ハウステンボスのグループ各社の全スタッフが研究員となっている。一人一人の日常活動そのものが環境に影響を及ぼすとする認識から、全員が環境活動の結果を理解し、実践に結びつけるためという徹底ぶりである。
さらに平成7年(1995)には、環境関連企業を巻き込んで「ハウステンボス環境研究会」をスタートさせた。これはハウステンボスを実験・研究の場として、環境保全技術の研究開発に取り組むコンソーシアムで、平成14年(2002)現在105会員が参加している。年刊の会報誌「知新」や環境シンポジウム等によって、成果を発表、情報提供を進めている。
 来場者向けには園内の「ニューススタッド」地区に設けられた「テーマリウム・エコロジア」で、ジオラマやマジックビジョンによって、ハウステンボスの運河の仕組みや環境設備をわかりやすく紹介している。

図15 ハウステンボスのオープンまでに行った環境整備の実際(出典:「環境会計報告書」)
図16 自然が回復した状況(出典:「環境会計報告書」)

○エコロジーを第一義とする生活者の理想に
一般的に「環境」を詠い文句にする開発は、メンテナンスやエネルギーコスト削減策のような主張が多い。自然環境の保全、再生となると、"樹木は切らずに他の場所に移した"的な対症療法的環境対策が中心で、エンターテイメントしか興味のない人には何の関心も生まない。
しかし、近い将来に、消費が繰り返される都市でありながら、まさに森の家(=ハウステンボス)のようにコムラサキやハヤブサが住処にする町に自分が暮らすとなると、エコロジーが第一意義になる。きっと、その町に引っ越したら、マイカーはハイブッリドカーに買い直そうとも思う。必ず近い将来に、ハウステンボスの「エコノミー&エコロジー」のバリューは、高い支持で市民権を得るだろう。

○環境コスト487億円、私的ベネフィット225億円
 平成14年(2002)7月、ハウステンボスはこの10年間の「環境会計報告書」を発表した。環境会計は、「環境活動に対してどれだけ費用・資源を投入し、それによってどれだけの効果を生んだかを測定するための手法」である。集計されたデータは、組織内部の経営管理の他、組織の信頼性を高める目的で外部に公表される。
 同報告によると、この10年間に環境再生と維持のために投資した「環境コスト」は約487億円で、この投資に対して企業が得られる利益を示す「私的ベネフィット」は約225億円と評価された。また、具体的な金額の算出は見送られたが、生活排水ゼロによる大村湾水質保全効果、生態系の回復による自然環境保全効果を示す「社会的ベネフィット」もある。
 従来型の大規模開発が環境破壊を余儀なくされている中、環境の再生で生じた自然資本が、私的ベネフィットより大きな社会的ベネフィットを創出しているのがハウステンボスの真実である。
実践から普及へ−このような環境に関するノウハウを、次の11年目からは、自然体験としての旅行商品づくりや、小中学生向けの環境教育プログラムの提供、また自治体や企業対象のコンサルティング等のビジネスにつなげていく計画だ。


図17 環境学習の教材に使用する「エコスタディ」


「4.訪れてのインプレッション」へ

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