2010-02-14
これは偽善だ!(映画『オーシャンズ』を観て)
観てきました『オーシャンズ』
知っての通り、海のどうぶつのあれやこれやを記録したネイチャードキュメンタリーです。
タイトルで予想はついてると思いますが、今回は基本的にdisです。
が、最初に良かったところも書いておきますね。
映像は期待通りですよ! これだけはハッキリいえます。
特に圧巻なのは最初の方の南アフリカ沖のシーン。
イワシの魚群に、イルカの群れが「ガオー!」っと突っ込んで阿鼻叫喚。
逃げ惑うイワシちゃんたちをイルカさんがガブガブいきます。
おお、イルカって肉食獣なんだな〜
と思ってると、その海の上空を、おびただしい数のカツオドリが滑空。
イルカに追われて海面近くに追いやられたイワシめがけてカツオドリが「シュババババ!」っと "落ちて" くるのです!
そのさまはもう鳥ではなくまさにミサイルそのもの!
上からカツオドリ、下からイルカ、ら、らめぇ〜〜〜と、なってるところにさらに更に巨大なクジラまで登場!
どっかーん! ざぱーーーん!
大混乱! 超カオス!
このシーンは観れば大抵の人はアガると思います。
あと、個人的にはシャコとカニのしょぼーい喧嘩のシーンとかもスゴく良かったです。
てな感じで、海のどうぶつのスゲー映像がガンガンくるのは良いんですよ。ナレーション*1が雰囲気重視であまり意味のあることをいってない感じがしたので、もうちと "解説" をして欲しいと思いましたが、この辺は好みかもしれませんしね。
でも、この映画には決定的にマズいところがあって、最後の方が偽善としかいいようのない環境保護プロパガンダになってるんですよ。
これはいただけない!
まあずっと海の美しい映像が続いたので「海をゴミや産業廃棄物で汚すな!」みたいなのはまだ分かるんですよ。
でも、この映画では人間のやる「漁」も悪いことのように描くんですね。
え、なんで?
俺はイルカがイワシをガブガブいくのも、人が魚を獲るのも基本的には変わらないと思うんですけど……。
敢えて批判するポイントがあるとしたら不必要な乱獲とかだと思うんですが、批判の矛先は漁の残酷さに向いてるんですね。
巻き網漁とか、捕鯨(でました!)がいかにも残酷で悪いことのように描かれるんです。
でも、残酷だろうがなんだろうが、人間だって捕食者である以上、他のいきものを殺さなくちゃならない。それを悪いことのように考えるのは傲慢だと思うんですね。
そう、この映画に込められた環境保護のメッセージはいちいち傲慢なんですよ。
例えば「自然界の生態系は完全に調和が取れてるのに、人間だけが動物を絶滅させたりしてそれを壊そうとしてる」みたいな大ウソを平気で主張するわけです。
そりゃ人間の文明や活動は生態系に大きな影響を与えます。でも野生動物のふるまいだって、常に生態系を変化させてるんですよ? 完全に調和して淘汰圧のなくなった生態系は「死んだ」生態系といってもいい。
"人間だって自然の一部だから生態系には干渉する、でも、人間には知性があるからどこまでが妥当かを考えられる。"
俺はこれが環境問題を考える上での1の1だと思います。人間も自然の一部だとしたうえで、人間中心に考えるべきなんですね。だって俺たち人間だもの、みつを。
なのにこの映画では、いきなり巻き網漁や捕鯨を「残酷だよね〜」とかいって悪者扱い。正直、何様だと思いますよ。
あと、細かいとこだけど、ナレーションで「人間は自然と和解できる」とかいったりね。
和解ってなんだよ!
この辺からも自分たちを神様とでも思ってるような傲慢さを感じるんですね。
で、特に噴飯ものなのが、フカヒレ漁のシーンです。
漁師が生きたサメからヒレだけ切り取って海に捨てる様子がいかにも極悪非道って感じで描かれます。たぶん映画の中で一番印象に残るシーンで、サメがヒレを失って海中に沈んでいく様がとても哀れに見えるんですね。
でもこれって、人間にとって必要な部分だけを取って自然の循環の中にサメを返してると捉えられなくもない。
それを悪し様に描いて断罪するのは、結局フカヒレを食べる習慣のない欧米人の価値観の押しつけに思えてしまう。
考えすぎかも知れませんが、フカヒレ漁をしてる黄色人のオッサン=野蛮人/「海って何?」という疑問を抱く白人の子=ピュアで文明的 みたいな対比を演出してるようにも見えて、そこはかとない差別意識も感じました。
この映画ではナレーションで「多様性」という言葉が連発されるんですが、よくいえたもんだと、と呆れてしまいます。
でも、実は本当にひどいところは別にあって……
なんと、このフカヒレ漁のシーン、完全にヤラセというか「作り」なんです!
パンフレット読んでのけぞったんですけど、ヒレを切られたサメはロボットで制作者は「聞いた話」を元に再現したっていうんですよ!
パンフレットによれば巻き網漁や捕鯨のシーンも特撮やCGを駆使して「作った」ようです。
だから映画の最後に
「私たちはこの映画のために海に生きるものを一匹も傷つけてない」
という意味の字幕が、誇らしげに出てくるんですね。
アホか!
それやったら、ドキュメンタリーじゃないだろ!
100歩譲っても再現ドラマ。『どーなってるの?!』とか『こたえてちょーだい!』でやってたアレですよ?
だったら、フカヒレ漁の漁師の家で嫁姑戦争が勃発くらいやれや。
で、検索したらこの映画の監督がこんなこといってるのが見つかりました。
クルーゾー監督は「実はあのサメはロボットなんです」と打ち明ける。「私たちは実際の漁の映像を見て、それを忠実に再現した。だって私たちはサメがそんなひどい目に遭っている場面に立ち会い、観察者としてカメラを回すことなど出来ませんから」
お前なあ!
なんで、それを「良いこと」みたいに主張できるの? それは恥だろ?
見たくないものの前でカメラ回せないなら、ドキュメンタリーなんかやめちまえよ!
ただ、この映画の「作り」の部分って、普通の人はいわれなきゃ分かんないと思うんですね。少なくとも俺はパンフ読むまで分かりませんでした。そういった意味で出来はスゴくいいです。
つまり、このドキュメンタリー映画が本当に伝えてくれてることは、環境云々のメッセージではなく、「現在の映像技術で捏造された "事実" は見抜くことができない」というリテラシーの危うさなんだと思います。
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