今回は、日本の学校教育で知識習得型の時間を減らし、論理的思考力を育成する時間をもっと増やすべきだということを提案します。従来のカリキュラムは、知識の習得を優先して、その枠の中で論理的な考え方をするよう設計されてきました。しかし、インターネットがこれだけ普及し、さまざまな知識にアクセスできるようになった今、教育時間の最適配分が変わってきたのではないでしょうか。
例えば、私たちは鎌倉幕府が成立した年を「1192(いいくに)つくろう鎌倉幕府」と教えられてきました。ところが、現在は、実質的には1185年ごろに成立していたと教科書に載っています。だからといって「いいハコつくろう」と新たな語呂合わせで教えようとするなら、従来型の教育と同じでしょう。
重要なのは「なぜ貴族政治がうまくいかなくなり、平氏政権そして源氏政権に移ったか」という詳細な背景説明です。そうすれば「現代において、どのような状況が起きれば、政権交代が生まれやすいのか」などという論理を歴史から学べるわけです。ところが、残念ながら、私はそうした論理を授業で聞いた記憶があまりありません。
私は学生時代、社会や生物の成績が、数学や物理に比べてかなり悪い方でした。体系化された教え方をされずに、とにかく覚えろという詰め込み教育が苦手だったためです。しかし、こうした知識は今、ネットの検索エンジンで一瞬で答えが得られます。必要なことは、検索エンジンで得られる結果を覚えることではなく、検索エンジンにどのようなキーワードを入れるかということであり、また、その結果をうのみにするのではなく、さまざまな角度から調べ直す観点を養うことです。
今は、知識の量よりも、知識の見つけ方や使い方、生かし方が求められています。それを身につけさせる教育こそ、論理的思考力を育成する教育なのです。「1192年(あるいは1185年)鎌倉幕府成立」と覚えこませるのではなく、「なぜ鎌倉幕府の成立が1192年(あるいは1185年)なのか」「武家とは何か」「なぜ貴族は衰退したのか」などと、一つの物事について最低でも5回は疑問を投げかけ、互いに議論することが大事だと考えます。
日本で論理的思考力を育成する教育が不足していることは、裸一貫から1兆円企業をつくり上げた経営者から、中学・高校生の教育に携わる数学者まで、私の周囲の人たちが異口同音に警鐘を鳴らしている問題です。「ゆとり教育」が迷走した原因の一つは、知識習得型の時間を減らしたにもかかわらず、論理的思考力を育成する教育の拡充が不十分だったり、その適切な指導方法が確立していなかったことではないでしょうか。
論文やディベート、実験など自らが体験して、論理を構築できる時間を増やすと同時に、知識習得も、どうやって検索するのかや情報ソースにあたるのかという実践的な教育が求められていると思います。論理的思考力を育成する教育のため、どのようなカリキュラムが考えられるか、みなさんのご意見をお聞かせください。(経済評論家)
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毎日新聞 2010年2月14日 東京朝刊