「カツマ教」信者の女上司とどう付き合うべきかプレジデント1月25日(月) 10時 0分配信 / 経済 - 経済総合
私の尊敬する勝間和代さんはベストセラーを連発している。 勝間さんの生き方に共鳴し、勝間本を読み、勝間さんみたいになりたいと思う人(以下、カツマー)は、40〜50代に多い。本来自分を見直すべき若い時期にバブルを経験し、アイデンティティがないまま年を重ねたために、今そのツケを払わされている世代だ。 勝間さんには、大前研一の資産力や、武田久美子の美貌、和田秀樹の学歴など、ほかのベストセラー作家にあるような明確な存在根拠が見当たらない。本人の弁を借りれば「私の本は売れている」から「私はすごい」。そして「私はすごい」ので「本が売れる」のだ。 数十冊ある勝間和代さんの著作の基本構造を分析してみた。 出だしには必ず「情熱大陸」への出演エピソードと、自分の本が累計○万部に達したという自慢が入る。内容には起承転結がなく、すべてが走り書きのメモのような形式が続く。長文の読書が苦手な人にも優しいつくりだ。 内容は、まず「あなたはダメ」という否定が入り、次に「でも昔の私もダメだった」とし、「こうすれば大丈夫」と続く。そして、妬まない、怒らない、愚痴らない、という勝間式「三毒追放」「断る力」「年収600万円以上」の3本立てを提案され、「みなさん早く『勝間和代』になって」と締められる。 この「紋切り型の構成」「わかりやすさ」に、まるで大人気番組「水戸黄門」を観ているような安心感を読者は受けるだろう。情報がギュッと詰まっていないのも新鮮だ。私の著作も含め、多くの書籍は、内容を詰め込もうとしていることを反省すべきかもしれない。 時折、勝間さんはマスコミ関係者や有名人とイチャつく、“業界人っぽい”エピソードを入れる。勝間さんはこの何気ないエピソードを通して、成功者、人気者「勝間和代」を演出している。これはかつて林真理子さんがエッセイでよく用いた手法だ。非常に効果的で、私もこの手法を見習おうかと思ったほどだ。 しかし、会社の上司がカツマーだった場合、こう静観しているわけにはいかない。なにしろ相手は「断る力」で、こちらの事情などお構いなしに暴走しはじめる。 動物は同じ空間に天敵がいると「ファイトorフライト」のどちらかを選ぶ。つまり、戦うか逃げるのだ。これを踏まえるなら、基本的には直接のやり取りを避けつつ、相手が弱っているときを見つけて近づくのがいいだろう。 もしカツマーと向き合う羽目になったら、相手の短所を褒めるのが効果的だ。なにを頼んでも「断る」のであれば、「(カツマー)さんはいつも嫌な顔をせず私を助けてくれますね」と、少々強引でも誘導していく。プライドの高さゆえに「断っている」場合も多いので、押すボタンさえ間違えなければ簡単に操縦できるはずだ。 ただし、間違ってもカツマーの派閥に入ったり、自分自身がカツマーになってはいけない。 社会心理学の「PM理論」は、リーダーシップはパフォーマンス(売り上げなどの目標達成)能力とメンテナンス(人間関係への配慮)能力で構成される。例えば、カルロス・ゴーンなど人望が厚いリーダーは、パフォーマンス志向は強いが、メンテナンスは個々を信頼し、任せる傾向にある。「僕はこう思うだけで、売り上げさえ伸ばしてくれれば君の考えた通りにやればいい」というわけだ。しかしカツマーは、パフォーマンスにもメンテナンスにも厳しくなる。「売り上げを上げよう。問題の原因は君自身にあるのだから、私のようにしなさい」となる。これでは、真のリーダーにはなれない。出世も自意識とは裏腹に遅れていく。 ただし、「情熱大陸」には出られるかもしれない。どちらを選ぶか、この判断が難しい。 ----------------------------------------------------- 心理学者・臨床心理士 植木理恵 東大院教育心理学科博士課程を単位取得退学。『シロクマのことだけは考えるな!』等著書多数。 大高志帆=構成 【関連記事】 ・ 実は部下から慕われていなかったら ・ 急増する女性管理職とどうつきあう? ・ 期待しても部下が結果を出せないのはなぜか ・ カリスマ性やビジョンだけでは人は動かない ・ 部下の士気を萎えさせないために上司ができること
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