私は編集者でも出版関係者でもないのですが、ちゃっかり潜入してまいりました。しかも最前列(笑)。
今日は少し長くなりましたが、その内容のメモを記載しておきたいと思います。
私のここ数カ月のまとめとしても、大変面白い流れの内容でした。
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■タブレットの意味
電子書籍コンソーシアムで約10年前に既にディスカッションされていた内容であるけれども、「Kindle」という電子デバイスを活用した新しいビジネスモデルの登場や、音楽配信流通を制覇したアップルの新製品「iPad」の登場により、電子書籍時代の編集者/出版社のあり方を真剣に考える時期に。
■デバイスにはデバイスに適したデザイン~アフォーダンス
例えば、iPhoneの産経新聞APPはiPhoneのデバイス特性に対してそのまま新聞紙面のレイアウトを持ち込んでいるが、大変読みづらい。
なぜ、新聞紙面があのようなレイアウトなのか?
それは紙の体裁を考えた上での最適な視線誘導効率を考慮した結果であり、iPhoneという全くことなるUIには不適切である。
※アフォーダンスとは、物体の持つ属性(形、色、材質)が、物体自身をどう取り扱ったら良いかについてのメッセージを生物(ユーザー)に対して発している、とする考え。有名な例でいうと、今目の前にイスが置いてあるが、このときこの椅子は特に「座れ」と字が書いていないのにもかかわらず、この椅子は座れるものだと分かる。これはこの椅子自身が「座る」ことをアフォードしているからである。
■自分の感覚体験で物語るな
そもそも、雑誌や新聞の既存デザインは意味ないのではないだろうか?
例えば携帯小説。あの小さい画面で読むのは辛い、ありえない、という意見があるものの、実際、若年層はあの小さな画面で万単位の文字で構成されている携帯小説を読んでいるのである。
自分がもっている感覚体験だけで語るのではなく、ロジカルに事象を分析することが重要である。
■距離と姿勢とサイズのマトリクス
こうしてみると、書籍の部分だけデジタルデバイスがなかった。つまり、書籍の電子デバイスとしてのタブレットは普及していくであろう、と。
ちなみにネットブックはパソコンのカテゴリであろう。なぜならば、リラックスして寝転びながら利用するよりも、モニタ+キーボードの体裁は集中して利用するシーンを想定したデバイスである。
■それぞれの体裁と機能
コンテンツ=本
コンテナ=電子書籍
コンベヤ=インターネット
■ビジネスモデル
収益体制が変わる
・書籍 1000円
・iPad・Kindle 300円
・出版社 700円
先行のamazon(Kindle)はiTSの音楽配信ビジネススキームを模倣したが、当面、KindleとiPadで市場を分け合う状況になるだろう。
マクミラン、アシェットなどが30%に賛同。
■プラットフォームの3つの条件 (アマゾン、アップル、グーグル)
①コンテンツ数:出版社横断をしたようなコンテンツ数
②インタフェイス:ユーザーオリエンテッド
(なぜ音楽ではiPodが売れたのか?
それはゆるいDRMであったから。ソニーのネットウォークマンはがちがちのDRMで伸び悩んだ)
※DRM=Digital Rights Management 転送回数、コピー回数などの制限
③ネットワーク:コンテンツ~アプリ~WEBショップの関係
アマゾンはこの点で強い。Kindleという単体の製品を販売しているのではなく、コンテンツから配信まで完結しているエコシステムである。
※USでは出版社がオリジナルデバイスを開発しているが、コンテンツが自社出版、あるいはアライアンス数社と限定されるため、普及は難しいと思われる。
たとえば、出版社HEARST社によるデバイス 『Skiff』
http://www.hearst.com/press-room/pr-20091204a.php
アライアンスモデルは時間がかかる! 独占禁止法などのリスクがある。
ものづくりジャパンの弊害→全体のシステムフローを考えたビジネスモデルを考えること。
■KindleのWholesale
【過去】
アマゾン価格決定権 9.99ドル
アマゾン -3.00ドル
出版社からの卸値 13.00ドル
↓
アップルが30%、出版社が70%のスキームを交渉スタート。
下記の通り変わらざるを得ない状況。
↓
【エージェント制】
出版社価格決定権 9.99ドル
アマゾン 30%
出版社 70%
※ エージェント制を選択してもアマゾンは実は増益。
■次に何が起きるのか?
“セルフパブリッシング”というシステムにより、個人で出版する人が増えるだろう。
出版の手順としてはおおよそ下記の通りとなる。
① ISBNコードを取得
② メタデータ(タイトル、著作権者名、などの付帯情報)を作成
③ HTMLファイルに変換
④ ファイルをアップロード
⑤ 商品として発行(Publishボタンをクリック)
※ 補足
●ISBNとは?
詳しくは http://ja.wikipedia.org/wiki/ISBN 参照
●デジタルコンテンツについてのISBN付与の基準についてhttp://www.isbn-center.jp/whatsnew/digital.html
●ISBNコードは、16800円出せば取得可能(10書名分)
詳しくは http://www.isbn-center.jp/shutoku/index.html 参照
電子出版のスキームは、基本的に売れた本のみをレベニューシェアする。つまり、初期コストは見かけ上無し、ということ。
【ケーススタディ】
★createspace https://www.createspace.com/
紙の本(フィジカル)を個人出版できるサイト。販売先はアマゾンで、パブリッシュの後、受注ボタンが顧客からクリックされた後、24時間以内に印刷され発送される。すでに米国等ではインディーズ作家がここを経由して出版している。
こうなると、目利き、良質な編集力といった部分はどうなるのか? 良書悪書含めて世の中に出版されていくことがデメリットとして挙げられるのでは?
さて、ここで現実を見ると、現状日本の書籍出版数は増加に増加を重ね、書籍が多すぎて顧客にとっては何を選んだらよく分からない状況を招き、この書籍洪水によって書店の崩壊を招いているのが現実。(「みなさん、それほど自信のある編集をして出版をしていますか?」という問い掛けに苦笑・・・)
これからはネットを通じて、顧客がゆっくり選択できるライフスタイルが益々伸びていく。
★Smashwords http://www.smashwords.com/
著作者とアマゾンの間に仲介者として入るエージェント的な機能をもつWEB書店。
・書籍 1000円
・アマゾン 300円
・Smashwords 105円 (15%)
・著作者 595円
すでにプロ作家が参加して発行している。
★Rosetta Books http://www.rosettabooks.com/index.php
ベストセラー『7つの習慣』の著者(A.コビー)へ高い印税率を提示して電子書籍の版権を獲得した。
(Amazon.com、ebookstore.sony.com、ebookstore.sony.com、 bookstore.sony.com、などの売り場へ誘導。)
こうしたケーススタディから考察されることは
・人気作家の方が電子書籍化しやすい。すでにファンがついているのでプロモーションなどは(出版社)不要。
・紙の世界では既刊本よりも新刊本にリソースがフォーカスされるが、ネット上では既刊本の需要が多い。いわゆるネットのフラット性、ロングテールの原理。
・では出版社の主要ビジネスドメインは「新人発掘」しかないのか?
■流通をにぎっているところが一番おいしい
ユーザーの時間は限られているにも関わらず供給が拡大している。需要<供給である。今後の全体的な方向性としては、供給側の価値がなくなってしまうのではないか。
音楽でいうところのiTunes Storeを見よ
PC音楽配信では、1曲=200円の基準がiPodやiTunes(アプリ)の普及とともにiTSの力学で決まってしまった。各メーカーはこの基準条件を飲まざるを得なくなった、ということ。
流通をにぎったところが一番の発言権、パワーをもつ。
(ただし、流通側にも流通コストがかかります。短なる中抜き、と考えるのも難ではありますね。要はコストを最小化することが重要かと。)
■編集者の方向性は2つある
①360度契約化
包括契約:キャラクター商品、ツアー、著作権→レーベルが契約で権利を獲得している
音楽の例であげれば、「A&M Octone」。もともとA&Mレコードが親会社だったが、スピードアップのために子会社化し、アーティストとの包括契約を推進。アーティストのグッズ、ツアー、著作権等々、包括的に契約をすることで商売の規模を拡大している。
②スモールビジネス化
メジャー企業の人件費をかけずに運営していく。いわゆるエージェントモデル。スタッフ数人で「このアーティストを育てていく」という方向でスモールビジネスを展開していく。
例えば『フリーランス連合』のような形で、下記のスキームで運営。
書籍 14ドル
iPad/Kindle 4ドル (30%)
著者+編集+デザイン 10ドル
■電子書籍化で変わる本の購読空間
コンテンツのアンビエント化に集約されるであろう。(アンビエント=偏在)
音楽の場合も、PC上のiTunesをベースにiPodをドッグに挿せばリビングで音楽を聴けるスタイルになっている。更にいえば、アップルはクラウド化を公言しているため、コンテンツのソースもクラウド上で統合される。書籍の世界もこの流れになっていくだろう。
また、若年層にとってはすべてが現在に属している(リバイバルではない)。つまり、昔流行った曲を聴いても昔の音源である、という認識ではないのだ。
すべての書籍データにフラットにアクセスできてしまうとなると、「今、自分は何が読みたいのか?」ということが購買のキッカケになるわけで、新しいとか過去のものだ、ということはさほど問題ではない。
■コンテンツとコンテキスト
今までは、「パッケージで選ぶ、マスメディアPRで選ぶ」、今後顧客はそういった視点でモノを選ばなくなってくる。脱パッケージの時代になるであろう。
例えば、おとりよせネットというECサイトがあるが、商品についての説明ではなく、商品に付帯する物語で誘導する、という手法を活用している。これはいわゆる「物語消費」「コンテキスト消費」と呼ばれるもの。
■パッケージ VS コンテキスト
ソーシャルメディアをコンテキストが流れる
「情報考学 http://www.ringolab.com/note/daiya/ 」「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる http://dain.cocolog-nifty.com/ 」「メディアマーカー http://mediamarker.net/」などのブログ、ソーシャル読書プラットフォームなどの書評を見て書籍を購入しているユーザーが増加している。
最近、若い人と話しをすると「ニコニコ動画オモシロイよね」「Twitterって楽しい」ということをよく耳にする。ニコ動にしてもTwitterにしても、コンテンツではなく、ソーシャルな「場所」であり、人々はコンテキストが流れるソーシャルな場所を楽しんでいる、といえる。
従来の読書は;
・文脈 読者
・書籍パッケージ(属性) 出版社
・書籍コンテンツ 出版社
電子書籍時代には;
・文脈 ソーシャルメディア
・書籍コンテンツ 著作者
つまり、どうやって文脈を読者と共有するか。 ということが重要なのではないか。
更にいえば、コンテンツとコンテキストがまとめて消費されている。それはすでに書籍ではないが、コンテンツである。書籍のメタ化、とでも言えよう。
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まとめのキーワードとしては、①アンビエント化、②ソーシャル化、③メタ化、として今後の編集者、出版社のあり方を考えるキッカケのような内容でした。
書籍雑誌におけるソーシャルメディアを今後語る上で、米国のCOPIAに私は注目しています。
COPIAでは、その発見、繋がり、そして共有ができるのです。
と、冒頭のサブキャッチに書かれています。
このPVを見ると、
と共有し、ディスカッションすることができる。その結果、
ができる。まぁ、そんなことが説明されているようです。
トライアルするみたいですね。
読書ソーシャルならFacebookでもできるじゃないか? と、COPIA体験をしていない私は思ってしまいますが、きっと、この「
いずれにせよ、こうした「場」について注目することは重要だと、
さて、自分は音楽寄りにいますが、確かに音楽は“配信”という部分でいえば5年くらい先に走っていると思います。しかし、書籍分野がそのスタート地点に立っているとするならば、スピードは5年前よりもヒートアップしています。音楽の立場から書籍を見た時に、過去の音楽事例を単純に踏襲すればいいか、といえばそれはまた違うのではないか、と私は感じています。
それでも、音楽が歩んで来た道を考察することは非常に大切だと思いますし、成功事例だけではなく、失敗事例から学ぶことも大変重要なことかと・・・
私は、音楽も文学もどちらも大好きです。こうした文化の維持発展には、作品そのものを生み出すクリエイターに還元されるべきだと思います。どうしたらマネタイズできるのか。ひいてはそれが、音楽や文学の新しい発展の大きな礎にもなるとも思っています。
そのように考えた時に、個人的に重要だと思うのは「流通」です。
特に昨今、音楽やテキストがデジタルという新しい形態で誕生し、それをどのように人と結びつけるか? どのような流通プラットフォームを介せば聴きたい人に、読みたい人に届くのか?
「人と人を結ぶプラットフォームは既に開発され利用されている。人と物、物と物が結ばれる世界はこれからクラウドをキーとして生まれるだろう」
ということを、Googleの村上さんが言っていました。
アナログ的な結びつきを否定するわけではなく、むしろ、そのような結びつきを否定してきた現代の先に、今後はデジタルツールを用いて人間のアナログ的強さを復活させるような、そんなことができたら素晴らしいな、と思います。
そうしたことを考える時、「編集」という事象がポイントになるのではないでしょうか?
何をどう結びつけるのか? その方向性と手段。
デジタルの隙間に垣間見えるフィーリング、そしてヒラメキ。
そのカガヤキの波紋を伝達しながら新しい創発につなげること。
ここ数カ月、そんなことが頭の中でグルグルしております。