きょうの社説 2010年2月14日

◎勤務医の負担軽減 自治体も支援策に工夫を
 中央社会保険医療協議会(中医協)が答申した2010年度の診療報酬改定案は、医師 不足が深刻化する救急、小児科、産科医療などの再生を図るため、地域の病院とその勤務医への報酬配分を重視したことが最大の特徴である。その中で、自治体も独自の支援策が可能な勤務医の負担軽減策として、医師の事務作業を代行する「医療クラーク(事務員)」の配置に伴う報酬加算の引き上げと、小児救急で看護師らが「院内トリアージ(優先順位付け)」を実施する病院の報酬加算を新たに認めた点に着目したい。

 病院の勤務医にとって、多くの患者の電子カルテの入力や診断書の作成、診療予約、保 険会社への書類作成など種々の事務作業が重荷になっており、残業や休日作業を強いられることが多い。このため、勤務医の激務緩和策の一つとして、医療クラークを配置した場合に報酬を加算する制度が08年度の改定で導入された。

 石川、富山それぞれの県立中央病院などで医療クラークが配置されており、「医師の負 担軽減で診療がスムーズになった」などの効果が報告されている。新年度から報酬加算が引き上げられることで、医療クラークを配置する病院が増えるとみられるが、全国の自治体の中には、医療クラークの人件費を独自に助成するところも出ている。医師の負担軽減のため、自治体が取り得る側面支援策の一つといえる。自治体と医療機関が連携して、医療クラークの養成に取り組むことも考えられよう。

 また、患者の治療の優先度を判別するトリアージは大規模災害時などに不可欠であり、 各自治体の災害訓練でも実施されているが、「コンビニ受診」といわれるように、休日、夜間の受診が増え、しかも多くの患者は軽症という救急外来では、看護師による事前のトリアージは効果的な医師の負担軽減策となる。そうした能力を持つ看護師「トリアージナース」育成ための研修などに自治体が本腰を入れることが望まれる。

 診療報酬の改定を機に、自治体として重労働の勤務医の負担軽減につながる方策がさら にないか研究してほしい。

◎モデル町家 面的な再生のきっかけに
 金沢市の「金澤町家再生活用モデル事業」による「職人工房」が開所した。同モデル事 業での町家再生はギャラリーや飲食店舗などに続いて4軒目で、今春には留学生らが共同生活する寮も誕生する。多様な活用例を広く発信して、「モデル町家」を核にした街なかの点から面の再生につなげたい。

 市内には1950(昭和25)年以前に建てられた町家が約6700棟あり、これまで の意識調査では8割以上の市民が「町家の継承・活用が必要」としているものの、年間300棟ほどの町家が取り壊されている。その背景には町家が人々の暮しを支え、金沢らしい文化的景観を形成する貴重な資源であるという認識が浸透していない点もあるとみられている。

 実際の魅力的な活用策を町家の所有者や事業者らが目の当たりにすれば、町家が持つ価 値の再認識につながるはずである。市は「モデル町家」の利用状況や居住性などを十分検証して、今後の町家の活用策に生かしてもらいたい。

 金澤町家再生活用モデル事業は、町家を店舗、工房、貸家、宿泊施設などに利活用する 際に改修費用を助成するもので、一定期間の公開などが条件になっている。先に開所した職人工房は、築110年を超す歴史的な建物が生まれ変わって作業場やギャラリースペースなどが設けられ、金工作家が創作活動を始めた。

 この工房は若手工芸作家の活動を支援する場であるとともに、町家と工芸の魅力に触れ ることができる観光スポットになる可能性もある。所有者は一時、解体も検討していたというから、町家再生の意義や活用の実例などをより周知する必要があろう。

 今春、留学生らの寮となる町家は、日本の文化を求める留学生が町家居住を望んでいる との意見を受けて、改修が行われた。「学都」金沢らしい町家の生かし方であり、同様の活用を促すモデルとして注目される。市は「金澤町家流通検討委員会」(仮称)を新設して、町家の流通を促進するための仕組みを構築する。町家再生へより広く官民の知恵を集めたい。