ハイブリッド車「プリウス」のブレーキ問題で、トヨタ自動車は9日、「ブレーキが瞬間的に利かなくなる」という現象を、安全上の「不具合」だと認めてリコール(回収・無償修理)を届け出た。豊田章男社長は同日、記者会見で「品質、安全性で迷惑、心配をかけたことをおわびする」と陳謝した。リコールは国内で約22万3千台。海外分を含めると約70カ国・地域で販売された計約43万7千台が改修の対象になる。
国内のリコールの内訳は、新型プリウス19万9666台(昨年4月〜今年1月生産分、全世界では約39万7千台)のほか、「SAI」1万820台(昨年10月〜今年2月生産分)、家庭用コンセントで充電できるプラグイン仕様のプリウス159台(昨年11月〜今年2月生産分、同約260台)とレクサスブランドの「HS250h」1万2423台(昨年6月〜今年2月生産分、同約2万8千台)。
新型プリウスは10日から全国の販売店などで改修を行う。だが、ほかの3車種は対策プログラムの準備が整っておらず、対策が遅れる。その間、3車種の新たな販売と納車を停止し、所有者にはブレーキをしっかり踏むよう注意を促す。3月ごろには対応できる見通しという。
届け出によると、問題があったのは、凸凹道や雪道など滑りやすい道でブレーキをかける際に、タイヤのスリップを防ぐアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)の電子制御プログラム。
ブレーキをかけている間に滑りやすい部分を通過するとABSが作動するが、プログラムの設定が不適切なために通常のブレーキ力が戻るまでに一瞬、ブレーキが利かないように感じる「空走感」が生じたり、実際に制動が遅れたりする。そのままの力でブレーキを踏み続けると予測よりも制動距離が延びるという。
たとえば、時速20キロで走行中に減速を始めた場合、通常のABS装着車は氷盤などでタイヤが滑るとABSが約0.4秒作動する。だが、新型プリウスはさらに0.06秒長い0.46秒の「空走感」を感じ、その分、制動距離も0.7メートル長くなるというデータがある。当初の目標に停止するためには、通常のABS装着車に比べて1.5倍の力をブレーキに加え、踏み込む必要が生じるという。
トヨタは当初、こうした現象を「フィーリング(運転感覚)の問題」ととらえ、1月末から新車のプログラムを改修し、すでに販売した分については「サービスキャンペーン(自主改修)」で対処する方針だった。
だが、国土交通省は当初から「安全にかかわる問題」ととらえていた。路面が凍るなどして滑りやすくなる冬場になって利用者からの苦情が急増していた。
トヨタの佐々木真一副社長(品質保証担当)は、道路運送車両法が定める保安基準は満たしていると強調した上で、「(国内の)20万台の車がこの先、何年も走ることを考えると、メーカーとして『(重大な事故は)絶対にない』とは言い切れず、お客様第一で考え、リコールに踏み切った」と説明した。
トヨタは、問題となった新型プリウスなどのブレーキの電子制御プログラムは、滑らかで静かに止まるために設定したと説明するが、今回のリコールで従来型のプログラムに戻すという。
今回のリコールはプログラムの修正だけで部品交換はなく、経営に直接与える影響は軽微とみられる。ただ、信頼回復に手間取ると、販売減などの影響も考えられる。(佐々木学)
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トヨタ自動車の豊田章男社長は9日、記者会見で、「トヨタは絶対に失敗しない全能な存在とは思っていない。お客様の指摘は必ず改善し、いい加減なごまかしはしない。顧客の安全をまず確保する」と述べ、信頼回復に全力を挙げる姿勢を示した。トヨタ車の安全性に対する不信感が高まっている米国を訪れる意思も表明。5日夜の記者会見まで一連の品質問題について公式な場での説明を避け批判を招いていたが、一転、社長自ら説明して回り、事態の収拾に乗り出す姿勢を打ち出した。
不具合を認めリコールに踏み切ったことについて豊田社長は、「お客さまの不安を真摯(しんし)に受け止め、安心して乗っていただくことを最優先にした」と語った。
訪米の目的について豊田社長は、「米国の会社の従業員や販売店を激励し、私自身の声で関係各位に説明したい」と話しただけで、時期や誰に会うかは明言しなかった。
販売面への影響では、豊田社長はプリウスについて「キャンセルをした方もいると聞いている」と話し、一部影響が出ていることを明らかにした。佐々木真一副社長は「3カ月以内に90%のお客様の修理を完了したい」と語り、改修を急ぐ考えを示した。
トヨタ自動車の品質問題については米議会下院が北米トヨタ自動車の稲葉良(よしみ)社長らを公聴会に呼び事情を聴く。米東部の大雪で、10日の予定は延期になったが、近く行われる。今回のプリウスのリコール発表はこれに間に合った。(久保智)