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トヨタの記者会見に見る社長の孤独

 また、新たに発生した問題としてプリウスのブレーキ問題が注目されていたが、この説明を自ら行わずに他の役員に説明を代わって貰ったのもまずい。専門家や担当役員が補足してもいいが、素人(ユーザー)向けの説明は社長がやらないと、社長が事態を把握できていない印象を与えるし、社長が率先して問題に取り組んでいないように見えてしまう。どのような原因に基づく不具合で、どう対策するのかを、社長の言葉で説明すべきだったし、会見ではプリウスのリコールを正式発表すべきだったのではなかろうか。

 一ビジネスパーソンとして、豊田章男社長の身になって考えてみるとすれば、この種の会見は難しくもあるし嫌な仕事だろう。この点は、大いに同情する。しかし、一サラリーマンと同等のレベルで「大変だろうなあ」と同情されても豊田社長は困るだろう。そして、トヨタの社員はもっと困っているはずだ。

 たとえば、豊田社長はあの会見に臨むに際して、一体、何回リハーサルをやったのだろうか。あの会見は、メディアへの露出を広告費に換算すると、たぶん数億円、場合によっては10億円を超える大イベントだったのではないか。

 そもそも、豊田社長は、会見の最初に軽く、ややせわしく頭を下げてから用意したメッセージを読んだが、この時点からして既に不安を感じさせたし、「日本流に頭は下げたが、深いお辞儀ではなかった」と暗に丁寧なお詫びの気持ちがこもっていないことを指摘する海外メディアもあったくらいだ。

 頭の下げ方や間の取り方も含めて専門家を付けて練習しておくべきだったし、「どうしてこれまで社長が登場しなかったのか」といった当然訊かれることが想定される質問に対しては、複数の人間で回答内容を吟味しておくべきだったろう。英語で答えてくれという質問が出るかも知れないことは、どうやら想定していたように見受けたが、内容的にもっと肝心な部分の説明が合格点とはいえなかった。

 明らかに「初心者マーク」付きの社長なのだから、情報発信に際しては、厳しい品質チェックが事前に必要だった筈なのだが、「練習」の必要性を指摘したり、想定問答の答えにだめ出しをしたりするような真の「忠臣」が周囲にいないようにお見受けした。

 期待されて社長に就任した創業家出身の豊田章男社長だが、案外、孤独な状況に置かれているのではないだろうか。御本人には迷惑だろうが、どうしても同情の気持ちが湧いてしまう。

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著者プロフィール

山崎 元
(経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員)

58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表取締役。

この連載について

旬のニュースをマクロからミクロまで、マルチな視点で山崎元氏が解説。経済・金融は言うに及ばず、世相・社会問題・事件まで、話題のネタを取り上げます。

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