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化粧

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化粧

雛見沢は今日もいい天気だ。

俺はレナと合流して魅音の待つ待ち合わせ場所へ向かっている。

「あ、魅ぃちゃんおはよ~♪」

「おーっす魅音。」

俺たちが声をかけても魅音は後を向いたままだった。

――聞えなかった…ってことはないよな――

「どうしたんだ? 居眠りでもしているのかよ。」

魅音の後で立ち止まり肩に手を伸ばしたとき、

魅音はこちらを振り返った。

魅音薄化粧.jpg

「圭ちゃん、おはよ。」

ドキンッ!

魅音の顔を見た俺は妙にドキドキしてしまった。

何かがいつもと違う…

なんていうか…

――か かわいい… ――

片手を前に伸ばしかけたまま魅音の顔を見て固まっている俺を、

魅音は小首を傾げて見ている。

「どうしたの? 圭ちゃん。」

「え? いや なんでも…お おはよう。」

何とか挨拶を搾り出して、俺たちは学校へと向かった。

「わかったぁ! 魅ぃちゃんお化粧してるんだね だね。」

「ふふ~ん、まぁね~。ちょっと大人びてみようかと思ってね~♪」

「化粧ぉ!? それでいつもと違って見えたのか。」

よく見ると唇やまぶたに少し色がついている。

まつげもいつもより鮮明にわかる。

原因がわかっても目の前の魅音がかわいい事実に変わりはない。

俺はドキドキしたまま歩き続けた。

「魅ぃちゃんとってもかぁいいよぉ~。」

「ははは、お持ち帰りは簡便してよね。」

「へへ、馬子にも衣装とはまさにこの事だな。」

「ぶーぶー、おじさんだって一応女の子なんだからお化粧ぐらいしたっていいじゃーん。」

憎まれ口を叩いてはいるが、やたらと魅音を意識してしまう。

上下の見事な膨らみと真ん中の括れ…

前から思っていたが、ヤバイボディーしていやがる…

「レナもお化粧してみようかなぁ…似合うと思う? 圭一くん。」

「そ そーだな…」

「レナは元がいいんだから絶対に会うよ。ね、圭ちゃん。」

「そ そーだな…」

――頼むからいちいちこっちを見ないでくれ、男の事情が… ――

学校に着くまでの間2人は事あるごとに俺に話を振り、

いちいち俺のほうを向いてきた。

絶対にわざととしか思えない頻度で…

「魅音さんお化粧道具なんて持ってらしたんですの?」

「失礼しちゃうねー。女の嗜みってやつだよ。」

「魅ぃが色気づきやがったのです、にぱ~。」

「まぁ来春からは高校生なんだし、これくらいは出来ないとねぇ。」

教室の話題は魅音の化粧一色だった。

さすがに小さい子が多いから変に僻むやつもいなく、

みんな憧れのまなざしで見ていた。

ガラッ

扉が開いて知恵先生が登場し、みんな自分の席に戻っていく。

「はい、授業を始めます。委員長。」

「きりーつ、きょーつけー…」

「「「「「おはよーございまーす」」」」」

「はい、おはようございます。

あら? 園崎さん、あなた…」

知恵先生は目ざとく魅音の化粧に気付いたようだ。

「あはは~、わかっちゃいました?」

「まぁ年頃の女の子ですから、興味があるのはわかりますが…

ここは学校なんですから。」

――やはり咎められたか、これは説教コースだな――

魅音が説教でもされれば、朝から困らせてくれた分くらいは

気分が落ち着くと思ったのだが…

「でも落とせというのもかわいそうですね。

今回だけは特別に許可します。」

――なぜだ!? 漫画の時は即没収だったのに! ――

先生の理不尽な決定にエコヒイキという言葉が頭に浮かんだ。

――やっぱり女の子は得だよな… ――

翌日レナと合流すると、レナは化粧をしていた。

昨日の魅音同様薄くではあるが。

かわいらしくて似合っているが、なぜか昨日の魅音ほどドキドキはしなかった。

俺はレナをからかいながら魅音との待ち合わせ場所へと向かった。

「魅音のやつまた後ろ向いてるぜ。」

「きっとお化粧変えてみたんだよ だよ。」

「確かに昨日と同じならわざわざ隠す必用はないからな。」

俺は魅音の後ろまで行き、声をかけた。

「よう魅音、少しは化粧がうまくなったか?」

俺はいつものペースを貫けるように、いつもの憎まれ口を言う。

その声を待っていたかのように魅音はこちらを振り向いた。

魅音厚化粧.jpg

「おはよ~ん、圭ちゃん☆」

「なっ!」

魅音の化粧は昨日より派手になっていた。

唇は真っ赤でまぶたもすぐにわかるくらいに色がついている。

しかもまつげがやけに長い。

付けまつげってやつだろうか…

「今日はアダルトな感じにしてみたんだけど、どうかな。似合う?」

「み 魅ぃちゃん…今日のはちょっと露骨過ぎると思うかな かな…」

さすがのレナも言葉が無いようだ。

「そっかなぁ…」

「多分、先生に怒られちゃうよ?」

「いけると思ったんだけどなー…圭ちゃんはどう思う?」

「そ そうだな…ちょっと露骨かもな…」

レナと同じ台詞しかいえなかった…

俺の目は魅音に釘付けだった…

他の事なんか考えられるわけがなかった…

――誰がなんと言おうと、グッドだぜ!――

俺は心の中で親指をグッ! と立てていた。

教室に入った俺は目を疑った。

なんとクラスに化粧が大流行していたのだ。

「おーほっほ、まるで砂糖に群がるアリのようですわね。」

男子達は好みの女の子の化粧姿見たさに群がっていた。

――沙都子って意外と人気あったんだな… ――

「失敗ばかりしていたくせによく言うのです にぱ~☆」

梨花ちゃんのスマイルも化粧のおかげか殺傷能力がアップしている。

――おい、岡村君失神してるぞ… ――

何人かは化粧をしていない子もいるが、

話を聞く限りどうやら全員一度は化粧品に手を出したようだ。

してこなかった子は親に見つかり許可が出なかったらしい。

ガラッ

扉が開き先生が登場して、全員席に戻った。

ちなみに岡村君はみんなに担がれて一応席に座ってはいる。

「はーい、授業を始めまーす。

いいんちょ…そ 園崎さん!」

――やはり、怒られるか――

知恵先生は魅音の顔を見るなり声を荒げた。

「昨日は特別に許可しましたが、

それほど派手なのはさすがに見過ごすわけにはいきません。」

 

「ええぇ~、先生だってお化粧してんじゃーん。」

魅音の言うとおり、知恵先生までも今日は化粧をしてきていた。

といってもクラスのみんなと同様に薄いものだ。

「うっ…そ それは… っ!?」

先生はそのとき初めてクラスの女の子の大半が化粧をしていることに気付いた。

「今分校ではお化粧が大流行なんですよね~。

この際お化粧解禁にしませんか?」

魅音は有利と見たのか、知恵先生をたたみ掛けた。

「そ そういうわけにはいきません!

私も今日の行為は反省します。明日からは普段どおりに戻します。

園崎さんも…みなさんもいいですね?」

「「「「「は~い」」」」」

次の日、さすがにレナは化粧はしてこなかった。

いつも通りの朝に戻り、いつも通りに待ち合わせ場所へ向かう。

「な なぁ…後ろ向いているってことは、まさか…」

「ま まさか…だって今日は本当に先生に怒られちゃうよ?」

「だ だよな…いくら魅音でもそこまでは…」

今日化粧をしていけば大目玉は間違いない。

いつもの魅音の顔であることを祈りつつ、俺は声をかけた。

「よ よぉ、魅音。さっさとがっこ…」

魅音ガングロ.jpg

俺は台詞の途中で固まった。

振り向いた魅音の顔は日焼けでもしたかのように小麦色。

唇は白くまぶたが緑。

まつげも今までにない位派手になっていた。

「みみみ 魅ぃちゃん…なに…それ…」

「これかい? くっくっく。これはねぇ、未来のファッションさ。」

「み 未来のだと?」

「そ、未来の。多分昭和が終わる頃に流行るんじゃないかな。」

「なんだか眉唾な話だなぁ。」

「馬鹿にしちゃいけないよ圭ちゃん。これのすごいところはね、

学校に遅刻したり無断欠席しても怒られないお化粧なんだよ。」

「はあ? なんだそれ、そんな化粧でなんで怒られないんだよ。

逆に神経逆撫でしそうだけどな。」

「ところが怒られないんだなこれが。

未来ではこの化粧が大流行するはずなんだよ。」

「何処でそんな情報仕入れてきたんだよ。」

「情報ソースは残念ながら教えられないねぇ。

ま、園崎の七不思議とでも思ってよ。でも確実な情報だよ。」

「本当ならすげぇ話だぞ? 俺もやってみようかな…」

「ん~、圭ちゃんは残念だけど無理だねぇ。

これは女子中学生の特権だから…

レナもやってみる? 先生に怒られないよぉ。」

「レ レナは遠慮したいかな かな…」

学校へ向かう途中魅音は『~だしー』とか『~みたいなー』とか、

変な言葉遣いをしていた。

なんでも化粧とセットで使う言葉らしい。

さらにとんでもないことに、怒られないことを証明してみせるとかいって

ふらふらとどこかへ行ってしまった。

「そんなお化粧があるなんて話は聞いたこともございませんわ。」

「みぃ 魅ぃの情報は間違っていることが多いのです。」

沙都子も梨花ちゃんも魅音の化粧についても未来の情報についても知らないようだ。

ちなみに今日は誰も化粧はしていない。

さすがに先生にダメと言われてまでしてくるやつは魅音くらいらしい。

ガラッ

先生が入ってきて、みんな席に着く。

――結局魅音はこなかったな…マジに遅刻しやがって――

「では授業を始めます。委員長…は おやすみですか?

連絡はありませんでしたが…では日直の人号令をかけてください。」

ガラッ!

見計らったかのように扉が開き、魅音が姿を現した。

「おくれちゃったぁ~。

でもぉ、朝からがっこーなんてちょーめんどくさいっていうかぁ。

マジやってらんな~いってかんじ?」

(お おい、レナ。アレで本当に怒られないのか?)

(わ わかんない。けど、すっごくまずいと思うな)

「園崎さん!! 何ですか! 遅刻した上にその態度!

しかも昨日お化粧はいけないと言ったばかりなのに!

そんなわけのわからない化粧までして!」

俺たちの心配は的中した。

先生は怒り爆発。

今にも髪が金色に逆立ちそうだ。

「え~、このセンスがわかんないの~。

さっすがおばさ~ん。」

「お おば…」

(まずいよ、魅ぃちゃんとってもまずいよ)

(こりゃ…血を見るかもな…)

俺には先生の髪が逆立ち、周りがパリパリいっているのが見えた気が…

(ちょっ まてっ 何で体に模様が浮き出て来ているんだよ)

(魅ぃちゃん…もう謝っても許してもらえないんだね…)

「園崎さん…思い残すことはありませんね…」

「ふぇ? ちょ ちょっと…せ せんせ…」

知恵先生がゆっくりと魅音に近づいていく。

だが誰も止めることはできない。

「ほ ほら、先生。これ、このお化粧…」

「山姥の物まねがどうかしましたか?…

しばらく自習にします。」

知恵先生はそれだけ言い残すと、魅音を引き摺って廊下へと消えて行った。

「な なあ、レナ。魅音は説教をされているんだよな?」

「う うん。そうだと思うよ」

何処からともなく、校長の物とは明らかに違う打撃音や炸裂音が響いてきていた。

二時限目が終わる頃ようやく戻ってきた魅音は、すっぴんになって目がカレー色だった。

そして席に戻ったとたんに糸が切れたように突っ伏し、

放課後まで復活することはなかった。

「おっかしーなー。おじさんが入手した情報だと怒られないはずなんだけどなー。」

「喧嘩を売っているようにしか見えませんでしたわよ?」

「やっぱり魅ぃの情報は当てにならないのです。」

「何か間違ってたんじゃないかな かな…」

「いやー、間違いはないはずなんだけどねぇ…」

「魅音、お前の情報があっているとするならばだ、

多分アレは怒られないんじゃなくって、

あきれて何もいわれなくなるんだと思うぞ。」

「それなら納得ですわね。」

「それで間違いないのですよ にぱ~♪」

「レナもそう思うかな かな」

「あるぇ~」(・3・)

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