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クローズアップ2010:政治主導の診療報酬改定 存在感かすむ中医協

 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR>

 ◇病院重視、厚労省政務三役が流れ

 4月以降の医療費の配分を決める10年度の診療報酬改定は12日、診療所(開業医)よりも病院を重視する形で決着した。長妻昭厚生労働相への答申案を決めたのは、中央社会保険医療協議会(中医協)だ。政権交代後初となった今回は、「政治主導」の旗の下、政治家が中医協の頭越しに配分の大枠まで決め、中医協の存在感は著しく低下した。【佐藤丈一】

 中医協は12日、救命救急センターの入院料加算を1万円に倍増するなど、数々の病院優遇策を打ち出した。激務から勤務医が辞めて開業に走り、病院の医師不足を招いている現状を打破するには、勤務医の待遇改善が不可欠と判断してのことだ。長妻氏は「これを足がかりに医療の立て直しに取り組む」と述べ、中医協の答申を尊重する考えを示した。

 しかし、病院重視の流れを作ったのは、足立信也厚労政務官ら同省の政務三役だ。足立氏は大学病院系の医師らと連携し、昨年末の予算編成段階で医科の診療報酬財源4800億円のうち、入院医療向けに4400億円を充てる道筋を作った。開業医を中心とする外来向けは400億円で、足立氏らは自民党族議員に代わり「病院族」と呼ばれるようになった。

 かつて中医協は日本医師会(日医)代表の診療側委員が力を誇った。診療報酬改定時には委員が深夜ホテルに陣取り、自民党厚生族と改定幅を調整した。

 開業医主体の日医が自民党に診療所優遇を働きかけ、結果として病院勤務医が冷遇されてきた--。そう考える足立氏らは、今回日医執行部を中医協から排除し、配分先も政治主導で枠をはめた。1月29日の中医協では、遠藤久夫会長(学習院大教授)が「価格をどうつけるかが優先順位だ。それに中医協は事実上関与しておらず、問題だ」と不満を漏らす場面もあった。

 ◇勤務医待遇改善、効果には疑問符

 では、政治主導で打ち出した「病院勤務医の待遇改善」は実現するのか。開業医の205万円に対し、勤務医123万円という月収差(財務省調べ)を何とか縮めたいというのが政府の意向だ。

 「(待遇改善に)つながる改革をしたい。医療補助員の増員、看護師の待遇改善を目指す」。12日、中医協委員で自治体病院を経営する伊藤文郎・愛知県津島市長はそう語った。だが、診療報酬は直接勤務医には配分されない。病院の収入増となる仕組みで、人件費に充てるか否かは経営者の胸三寸。「まずは赤字補てん」と言うトップも多い。09年度の介護報酬改定では「介護職員の待遇改善」を目指し3%アップを実現したが、十分な人件費増に結びついていない。

 また、夏の参院選をにらみ、開業医にも気配りせざるを得なかった。診療所の再診料引き下げ幅は当初予定の半分以下、20円にとどまり、さらに24時間体制の医院などを対象とした加算措置も新設された。加算は10日の再診料引き下げ案提示の際、泥縄的に示されたもので、要件など議論は生煮えのままだ。

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 ◇患者負担、どう変わる

 10年度の診療報酬改定は医師の技術料(本体部分)が1・55%増となったこともあり、患者には負担増となるケースが多くなる。主な事例は--。

 ◇高血圧症の治療のため月2回、診療所(開業医)で治療を受ける80歳女性=表<上>

 ●年48円アップ

 診療所の再診料は710円から690円に下がった。この診療所では医療費の明細書を無料で発行、電話問い合わせには24時間応じてくれる。4月から、明細書の発行に10円、24時間対応には30円が上乗せされるため、再診料は差し引き20円増。

 毎回丁寧な説明を受けるので外来管理加算(520円)もかかる。特定疾患の管理料(2250円)などを加えると1カ月の医療費は8680円から8720円に膨らむ。

 女性は75歳以上で自己負担が1割なので、1年分の医療費を単純に合算すれば窓口での支払いは年に48円増。明細書分など新たな負担は1回につき2円だ。10円未満は四捨五入されるため負担が変わらないこともある。

 ◇発熱とのどの痛みで午後9時に夜間急病センターを訪れ、解熱剤などを処方された45歳男性=表<下>

 ●300円アップ

 このセンターは地域の病院の依頼を受け、近隣の開業医が交代で夜勤をこなしているため、新設の「地域連携夜間・休日診療料」(1000円)負担が必要になる。

 初診料2700円、時間外の特例加算2300円などを含め、合計額は5680円から6680円に上がる。自己負担は3割なので、窓口で払う医療費は2000円と300円増える。

 ◇切迫早産から妊娠28週で入院し、30週で帝王切開。出産後7日で退院した35歳女性

 ●1350円アップ

 女性は「患者7人に看護師1人(7対1)」の大病院(600床)に21日間入院した。14日間までの入院料は4月以降1日当たり220円増の4500円となる上、この病院は医師の負担を減らすためにカルテ整理などをする事務員を12人(50床に1人)雇っており、事務員配置への加算が700円増の2550円となる。

 また、帝王切開は15万円から19万3400円にアップする。切迫早産だったため、出産から7日間、ハイリスク分娩(ぶんべん)管理加算が1日3万円(改定前は2万円)上乗せされ、総医療費は改定前より13万5330円増の97万6290円へ増える。ただ、月の負担上限を定めた高額療養費制度により、女性の自己負担は8万7190円と1350円増に抑えられる。

毎日新聞 2010年2月13日 東京朝刊

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