中央社会保険医療協議会(中医協)は10年度の診療報酬改定案を長妻昭厚生労働相に答申した。民主党は昨年の総選挙前、診療報酬の大幅増を主張していたが、実際には総枠で0・19%という微増にとどまり、配分でどのような方向性を打ち出せるかが注目されていた。
争点になったのは外来の再診料である。財源がない中で病院(200床未満)の再診料(600円)を上げるため、診療所の再診料(710円)を下げる案に開業医中心の日本医師会(日医)は猛反発した。従来ならここで妥協するところだが、押し切って690円に統一できたのは、自民党の支持母体だった日医を中医協から排除したからである。民主党にとっては政権交代の効果を改めて印象づけることになった。
救急、産科、小児科、外科など医師不足が指摘される診療科への配分も手厚くした。ただ、多くの病院は経営難に陥っており、増収分は赤字の補てんに充てられるのではないかとも見られている。過重労働が問題になっている勤務医の負担軽減という面では、医師を補助する職員を多く配置した病院への加算上限を3550円から8100円に引き上げた。こちらの方が直接的な効果を期待できるかもしれない。また、休日や夜間の外来対応を開業医に手伝ってもらう体制を敷いた病院に新たな診療料を設けることは、医療機関の機能分担と連携を進めていく上で現実的な方策の一つであろう。
病院の報酬を引き上げるためにターゲットにされた診療所だが、在宅医療の拠点として夜間や休日も地域の患者を支えている診療所は多い。都心のビルの一室で開業し、夜間・休日は対応しない診療所と同じ報酬体系に位置づけるのは不合理ではないか。軽い症状の患者が病院に殺到することで勤務医を疲弊させ、医療費も圧迫している現状を改善するためには、やはり在宅医療の質を高めてプライマリーケア(初期診療)を充実させる路線を推し進めるべきだ。再診料は一律引き下げるが、24時間電話で応対する診療所への加算が盛り込まれたのは一定の歯止めになるかもしれない。
今回の改定が医療崩壊を防ぐのにどのくらいの効果があるのか、まだ判断できない。ただ、国内総生産に占める日本の公的医療費は先進諸国に比べて低いことを指摘しておきたい。ドイツ並みにするには7・5兆円、フランス並みには10兆円の上乗せが必要だという試算もある。雇用が不安定になり賃金水準も下がる中では負担から目をそらしたくなるものだ。しかし、医療を抜本的に立て直すには何が必要か、次回の改定に向けて今から議論を深めたい。
毎日新聞 2010年2月13日 東京朝刊