栃木県足利市で90年、4歳女児が殺害された「足利事件」で無期懲役判決を受け、昨年6月に釈放された菅家利和さん(63)の再審第6回公判が12日、宇都宮地裁(佐藤正信裁判長)で開かれた。検察側は論告で冤罪(えんざい)により17年半も自由を奪われた菅家さんの無罪を求めた。「取り調べられた証拠により、無罪を言い渡すべきことは明らか」。無実の罪を解く論告は1分に満たず、菅家さんは険しい表情を崩さなかった。公判は同日結審し、3月26日に無罪が言い渡される。
日本弁護士連合会によると、死刑や無期懲役が確定した事件の再審公判で、検察側が無罪を求めたのは初めてとみられる。事実上の無罪判決だが、菅家さんの心は晴れなかった。公判後の記者会見では「17年半を思えば、1分少々(の論告)では物足りない。謝罪はあったが、1分少々では腹の底から謝ったとは思えない」と不満を述べた。
会見に先立ち、降り積もった雪を踏んで地裁入りした菅家さんは、開廷が告げられると、硬い表情で弁護団席に座り、目を伏せた。無罪を求めた検察官は「一言、ご容赦いただけますか」と裁判長に許可を求め、「17年余りの長期間にわたり服役を余儀なくさせて、取り返しのつかない事態を招いたことに検察官として誠に申し訳なく思っています」と謝罪した。菅家さんは天井を一瞬見上げ、検察官3人が頭を下げると、小さくうなずいた。
弁護側は最終弁論で、有罪の決め手となった自白に任意性はなく、科警研によるDNA鑑定とともに証拠能力がないと主張。不備な証拠を基に有罪判決を下した裁判所に謝罪を求め、判決では冤罪を招いた原因に触れるよう求めた。最後に菅家さんが意見陳述し「自由を奪われた17年半は、本当につらくて苦しい毎日でした。私と同じように冤罪で苦しむ人が今後二度と出てほしくありません。裁判官、どうか、私の17年半を無駄にしないような判決をお願いします」と訴えた。【吉村周平、立上修】
毎日新聞 2010年2月12日 11時29分(最終更新 2月12日 21時33分)