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社説:連隊長訓示問題 政治発言の風潮危ぶむ

 10日に始まった陸上自衛隊と米陸軍の共同訓練の開始式で、陸自側を代表して訓示した陸自第6師団第44普通科連隊の中沢剛連隊長(1等陸佐)が、「同盟というものは、外交や政治的な美辞麗句で維持されるものではなく、ましてや『信頼してくれ』などという言葉だけで維持されるものではない」と発言した。

 鳩山由紀夫首相は昨年11月の日米首脳会談で、米軍普天間飛行場の移設問題を巡りオバマ大統領に「トラスト・ミー(私を信じてほしい)」と伝えている。連隊長は訓示後、「首相の発言を引用したり批判したりしたわけではない」とコメントしたが、首相発言をやゆし、批判したものと受け取られても仕方がない。

 北沢俊美防衛相は「現場の指揮官が政治や外交という高度な国家意思について言及している部分もある」と問題視。防衛省は12日、文書による注意処分とした。

 連隊長発言を聞いて、政府見解に反する論文発表で更迭された田母神(たもがみ)俊雄前航空幕僚長の問題を想起した国民も多いに違いない。戦前日本の植民地支配・侵略を正当化した田母神氏の論文と連隊長発言では問題のレベルに差がある。が、実力部隊を指揮する幹部による、政権や首相の政治方針・意思への批判的発言という点は同じである。しかも、連隊長の発言は、訓練参加部隊に対する公式の訓示の中で飛び出した。

 これは、自衛隊の最高指揮官である首相に対する批判という規律上の問題にとどまらず、文民統制(シビリアンコントロール)の観点から問題であると言わざるを得ない。

 また、連隊長発言には、外交を軽視していると受け取られかねない部分もある。共同訓練を前に軍事的連携の重要性を参加隊員に強調するのが本意だったのかもしれない。が、対外関係で、軍事を外交の上に置く考えがあるとすれば看過できない。

 防衛省は、田母神氏の問題を受けて、1佐、2佐クラスを対象とした統合幕僚学校の講座「歴史観・国家観」の見直しなどのほか、隊内教育改善に向けた統一方針の策定を打ち出した。しかし、連隊長の発言を聞く限り、対策が十分な効果を上げているとは思えない。

 何より問題なのは、今回の事態が、「政」と「軍」の関係をわきまえず、政治を公然と批判する風潮が実力組織の内部、特に幹部クラスにまん延しているのではないか、という疑念を生みかねないことだ。「連隊長発言は氷山の一角」との認識が広がれば、長年にわたって築き上げてきた自衛隊に対する国民の信頼を突き崩すことになろう。

 防衛省・自衛隊には、文民統制を含め隊内教育を改めて見直し、再発防止を徹底してもらいたい。

毎日新聞 2010年2月13日 2時30分

 

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