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2010年2月 9日 (火)

「対位法」

2月6日に放送されたタマフルの『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』の評のなかで宇多丸さんは、その音楽の使い方を批判するときに「たいいほう」という言葉をつかっていた。もちろんバッハ好きの僕は即座に「対位法」と変換したけど、なんか妙な感じがした。宇多丸師匠の話によれば、悲惨な映像や物語に明るい音楽を使うことで、一層その悲惨さを引き立てる音楽の使い方を「対位法」と黒澤明が呼んだらしく、ネットの情報で補足をすると『野良犬』のいくつかのシーンが典型らしいんだけど、作曲技法の対位法とこの「対位法」って離れている気がするんだよね。今の処それほど一般的な用語ではないようだから、広まるうちに芽を潰しておいた方がいいような気がする。

とはいっても、それ程間違った使い方ではないことは確かなようで、WiktionaryのCounterpointの項

  1. (music) a melody added to an existing one, especially one added to provide harmony whilst each retains its simultaneous identity; a composition consisting of such contrapuntal melodies
  2. any similar contrasting element in a work of art

の2の用法だと言えないこともない。ただここを見るかぎり英語であの対照的な音楽をつける手法を「対位法(Counterpoint)」と呼ぶのは一般的でないことが分かる。じゃあ英語では何と呼ぶのか、また日本語で他の呼び方があるのかは知らないけれど、とりあえず「対位法」という分けのわからぬ(使っている人の多くはその作曲技法を理解していないだろう)言葉を使うのはやめた方がいいと思う。

じゃあそもそも対位法とは何かってな話をしたいんだけど、僕自身そんなものを学んだ機会がないから、ウィキの記述によりかかって話そう。

多声音楽(複数の声部からなる音楽)そのものの起源は定かではないが、今日まで続く対位法の技法・理論は中世の教会音楽に端を発している。9世紀頃、単声のグレゴリオ聖歌に対して4度あるいは5度で平行する旋律を付加する、オルガヌムと呼ばれる唱法が出現した。当初、オルガヌムにはリズム上の独立性はなく、一つの音符に対しては一つの音符が付加された。“対位法”(counterpoint)という語の語源はラテン語の“punctus contra punctum”(点対点、つまり音符に対する音符)であり、ここに由来する。

「対位法」という訳語が何処から来たのか調べが行き届いてないが、原義を表せば「対点」ということに過ぎない。これを「対位」なんて分かりにくい訳語を用いるから後光がさしてしまい、知らない人を無駄に魅了してしまう。ちなみにこのオルガヌムの動画が見つけられなかったけど、まあ隣にいる人に何か好きな歌(できればグレゴリオ聖歌)をうたわせて、その4度下または5度下でおなじ曲を歌えばオルガヌムなるんだから、動画はいいか。

11世紀には、平行進行のみでなく反進行や斜進行も用いられる自由オルガヌムが用いられたが、リズム的には一音符対一音符のままであった。12世紀になって、単声を保続音としてその上により細かい音符を付加する、メリスマ的オルガヌムの技法が現れた。

このメリスマ的オルガヌムについては、レオニヌスの曲を聞いてもらいましょう。

複旋律音楽も二声だと分かりやすくていいよね。でもこれから声部が増えます。

アルス・アンティクアの時代(12世紀中頃~13世紀末)には、声部の数がそれまでの二声から、三声、四声へと拡大し、オルガヌムもより複雑化した。アルス・ノーヴァの時代(14世紀)に至ると、それまでの定型的なリズムに替わって、より多様なリズムも用いられるようになった。また、オルガヌムのように既存の旋律に付加する形をとるのではなく、音楽全体を新たに作曲する傾向も生まれた。

まずは三声、ペロティヌスの曲。

つぎオルガンふくめ四声。同じくペロティヌスってことらしいんだけど、随分毛並みが違う気がする。この時代の曲はよく分からないから何とも言えないけど、とりあえずいい曲だからはっとこう。

アルス・ノヴァと言えばやっぱりマショーのノートル・ダム・ミサ。これなかなかいい映像だ。

さて暗黒の中世を抜けて、輝けるルネサンスへ。

ルネサンス期(15世紀 - 16世紀)になると、各声部の独立性はさらに明確化した。ルネサンス末期に現れたパレストリーナの様式は対位法の模範とされる。またルネサンス末期には、旋律と旋律の積み重ねによってではなく、和音と和音との連結によって音楽を創る「和声」の発想が現れ、以後バロック期にかけて次第にこの発想が支配的となっていった。

ルネサンス音楽と言えば、パレストリーナ。パレストリーナと言えば「教皇マルチェルスのミサ」。そのうちサンクトゥスとベネディクトゥスをタリス・スコラーズで。

いやいやパレストリーナではなくジョスカンでしょうという向きもありましょう、同じくタリス・スコラーズ(画像が変なのは気にしない)

あと、ルネサンス末期からバロックにかけての曲で忘れちゃいけないのがアレグリのミゼレーレ。門外不出の曲をモーツアルトが2度聴いて暗譜、流出した曲ですね。

ルネサンスがおわってバロックにはいります。

18世紀に入ると、教会旋法による音楽は次第に廃れ、長調・短調による調性的な音楽が主流となり、それに伴い対位法にもますます和声的な発想が入り込むようになった。それまで合唱、つまり声楽と共に発展してきた対位法が、この時代に至ると器楽も発達し、それに伴って器楽的対位法と言われる新たな音楽語法が現れた。この時代に活躍したJ.S.バッハの作品はそれまでの対位法的音楽の集大成であると同時に、和声的な音楽語法をも用いたものであり、音楽史上一つの転換点であるとみなされる。

ここまで音楽的な話になると、僕もよくついていけないけど、とにかく今まで貼った動画のほとんどがア・カペラ合唱であったということには注意喚起しておきます。で、もはやバロックともなると言及すべき作曲家も多くなり、はっきりいって手に余るから、バッハだけいくつか動画をはって終わりにする。

僕は、映像や物語と対照的な音楽をつけるけそのコントラストで映像や物語の意味を強める音楽の使い方を「対位法」と呼びたくない。

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