きょうの社説 2010年2月13日

◎台湾の八田公園着工 地道な民間交流に新たな実り
 台湾の烏山頭(うさんとう)ダム建設に尽力した金沢出身の八田與一(はったよいち) 技師をたたえる「記念公園」が現地で着工した。昨年の技師の墓前祭に出席した馬英九総統が整備計画を表明し、技師の命日にあたる来年5月8日のオープンを目指す。これまでの金沢、石川と現地との地道な民間交流が新たな実りをもたらしたといえ、今後の日台交流促進に大きな弾みがつく。

 公園に復元される宿舎は日本人の滞在用に使われる計画で、次世代の交流を担う若者ら を育てる場としても期待がかかる。宿舎に石川から古い家具や調度品を贈る「“パッテンライ”の家に家具を贈ろう」キャンペーンも展開しており、八田技師ゆかりの公園整備を石川の地からも積極的に後押ししたい。

 烏山頭ダムの湖畔に設けられる記念公園について、着工式に出席した台湾交通部の毛治 国部長(大臣)と台南県の蘇煥智知事はそれぞれ、日台の「観光交流の重要な舞台になることを望む」、「相互理解につなげたい」と期待を込めた。八田技師の宿舎を中心に4棟を修復、復元する公園は、観光振興の施設にもなろうし、何よりも日本と台湾の人々が八田技師の功績や志を肌で感じられる拠点となることを楽しみにしたい。

 県内から現地を訪れる修学旅行生も増えており、新たに金大附属高1年生が3月に台湾 に行き、烏山頭ダムも訪れる。今後、多感な若者たちがダム湖畔の宿舎で八田技師の生涯に思いをはせば、新たな交流が芽生え、自らの将来を考える貴重な機会にもなるだろう。

 この公園の展示の目玉ともいえるのが石川から贈られる古い家具や調度品の数々である 。これまでも本棚や鏡台など40点余りの寄贈の申し出が寄せられており、一層の掘り起こしによって展示品の充実が図られる。

 アニメ映画「パッテンライ!!」が台湾全土で公開されたのを機に、台湾での八田技師 への関心が高まっている。現地で顕彰する記念基金も設立を許可され、3月にも設立記念大会を開く。烏山頭ダムの世界遺産登録を目指す動きもあり、八田技師を通じた日台の相互交流をさらに深めていきたい。

◎冬季五輪が開幕 マイナー競技にも応援を
 氷と雪のスポーツの祭典、バンクーバー冬季五輪が開幕した。今回は各競技に有望選手 が多く、男女のフィギュア、フリースタイルスキー・女子モーグル、ジャンプ、ノルディック複合団体などでメダルの期待が膨らんでいる。荒川静香さん(女子フィギュア)の金メダル1個に終わった前回トリノ大会の雪辱を果たしてくれるのではないか。

 ただ、メダル争いにばかり目を奪われず、マイナーな競技にも関心を持ち、奮闘する選 手たちを応援したい。たとえば、スケルトンやリュージュ、ボブスレー、クロスカントリー、バイアスロンといった普段あまり見る機会のない競技である。前回大会では、カーリングに注目が集まり、一躍人気競技の仲間入りを果たした。そうした新たな星を見つけるのもオリンピックの楽しみだ。

 長野五輪で10個のメダルを取って以降、冬季大会での日本勢の不振が続いている。原 因は北海道や長野をはじめ、ウインタースポーツが盛んな地方の経済が疲弊していることと無縁ではない。地方の有力企業に余力が無くなり、ジャンプやスピードスケートなどの人気種目ですら廃部や人員削減が相次いでいる。これは冬季五輪に限ったことではないが、マイナー競技の選手は練習場所の確保すらままならず、競技を続けていくのが難しい立場に追い込まれている。

 行政刷新会議の事業仕分けでは、「マイナーな冬季競技を支援する必要があるのか」と いう発言があった。投資に見合う効果を選手に求められても途方に暮れるだけだろう。マイナー競技だからこそ支援が必要なのであり、仕分け人の発言にスポーツ界から異論が相次いだのも当然である。

 逆境にへこたれず、競技を続けていくなかで、北京五輪のフェンシング・男子フルーレ で銀メダルを取った太田雄貴選手のようなスターが生まれる。そんなドラマに、どれだけ多くの人々が励まされ、勇気をもらうか。日の丸を背負う選手たちの活躍は、景気低迷の重苦しさを吹き払ってくれるだろう。今回もまた第二の太田選手を見つける楽しみがある。