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巻頭特集

イノシシ捕獲の現場を見に行く
栃木県足利市

編集部

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イノシシイラスト・「猪突猛進」のイメージとは逆に、じつは警戒心がとても強く、臆病。通い慣れたけもの道をたどって移動
・学習能力はサルなみ
・ジャンプ力は、助走なしで1mの高さを飛び越すほど。20cmの隙間があればくぐり抜ける
・鼻で押し上げる力は70kgの石を簡単に動かすほど
・年に1回繁殖、一度に4〜5頭の子を産む

捕獲されたイノシシ
須永さんの箱檻で捕獲されたイノシシ


昨年の秋からもう20頭もイノシシが獲れたよ、と籾山さん

イノシシが泥浴びをしたヌタ場
イノシシが泥浴びをしたヌタ場

庭のヤマユリまで掘り返された

 ここ栃木県足利市でも、イノシシの被害が増えている。山間部の畑ではまずサツマイモはつくれないといわれるし、最近ではジャガイモの種イモやサトイモまで食われるほど。田んぼや畑以外でも、ゴルフ場では芝を荒らされて困っているという。被害がとくに増えたのはここ5〜6年のことだ。

 そこで「有害獣駆除」のために捕獲されるイノシシが増え、足利市では昨年度はそれが372頭に上った。狩猟免許を持つことから有害獣駆除を頼まれる須永重夫さんは、このうち120頭を捕獲している。須永さんは五年ほど前から、独自の工夫を凝らしたイノシシ捕獲用の箱檻(箱わな)を開発しており(法定猟具、特許も取得)、120頭ものイノシシを捕獲できたのはその成果でもある。

山際にクリの木、その下に休耕田
山際にクリの木、その下に休耕田。こんなところを好んで、イノシシは里まで下りてくる

 足利市は関東平野の端、日光のほうから続く山脈の南端にある。市の中心部は渡良瀬川の両岸に広がる平地だが、車で10分も走ると 山際に人家が連なる地区に入る。須永さんに案内された一軒、籾山千鶴子さん(62歳)の家では、昨年は庭に植えたヤマユリの球根まで掘り返されるほど、イノシシが身近に迫っていたという。

 籾山さんの家のすぐ裏が山だ。山の下には休耕田も何枚か並んでいて、その一部が「ヌタ場」になっているらしい。ヌタ場になるのは水が流れ込む泥田状のところで、イノシシはそこで泥浴び(ヌタ打ち)してダニを落としたりする。

 昨年の秋、籾山さんは須永さんに頼んで、家の裏手の山の3カ所に箱檻を仕掛けてもらった。そしたらこの春までに、なんと20頭もイノシシが捕れた。

箱檻設置場所は人家近くの薄暗いところ

 須永さんによると、箱檻でイノシシを捕獲できるかどうかは8割がた設置場所で決まるという。

 イノシシが好むのは、まず、前述のようなヌタ場になる休耕田などが近くにあるところ。しかしだからといって、耕作放棄された田んぼの真ん中に箱檻を置いてもイノシシは捕らえられない。ウメやクリの樹などが近くにあって薄暗いところ。スギやヒノキの薄暗い山林なら、その中でも雑木や笹竹が茂ったような暗がりがピッタリの設置場所だ。イノシシはタケノコも好んで食べる。

 それに箱檻は、人家からあまり離れていないところに仕掛けるのがいい。イノシシが建物やブロック塀などを見慣れているところのそばなら、鉄でできた箱檻が置いてあってもそれほど警戒しなくなるからだ。

箱檻のしくみ

須永さん考案のイノシシ用の檻
須永さん考案のイノシシ用の檻は1m×1m×2mの大きさ。両側が開いていること、奥行きが長すぎないこと(2m)で、警戒心の強いイノシシが入りやすくなるとのこと
イノシシがまたげず、くぐりにくい
イノシシがまたげず、くぐりにくい高さが30cm。イノシシは壁に沿って進むので、ハンドルの先と壁のあいだが15cmあいていることで、ヒゲが当たらないまま前へ進み、ハンドルを押しやすくなる
構造図
ハンドルが回転するとアームが動きピンがはずれてドアが落ちる

箱檻の設置のしかた箱檻の設置のしかた

設置のしかたのコツ

 場所が決まったら、地面を少し掘り下げてから設置する。地面が斜めになっているときは、箱檻が水平になるよう山側の斜面を削る。

 また、須永さんの考案したイノシシ用の箱檻は両側(二方向)にトビラが付いているのが特徴だが、トビラのない長辺側を山の斜面の上下に向けるようにする。つまりイノシシが出入りするトビラ側が等高線方向を向くように置くわけだ。

 次に、底面の網が隠れるように5cmほど土を入れる。鉄棒や鉄板、木の板など、足が滑るところにはイノシシは入ろうとしない。「イノシシには、脚を折ったときに駆け込める接骨医がいないからだ」そうだ。ただし、ワラや木の葉で覆ったりはしないこと。木の葉が敷いてあったりすると、下に何か仕掛けがあるのではないかと警戒するらしい。イノシシは土が見えているほうが安心するのだ。

エサは米ヌカを主に、自然塩を1割混ぜて

 イノシシを呼び込むために、箱檻の中にエサを置く。主には米ヌカで、小米や小麦、オカラ、サツマイモ、ジャガイモ、リンゴ、酒粕などを混ぜるといい。サツマイモやリンゴは小さく切って混ぜる。米ヌカは、炒ってから使ったほうが腐敗するのが遅くなる。

 またイノシシは塩分もとりたがるので、塩をエサの1割くらいになるよう混ぜると効果的。ただし、食塩のような精製した塩よりはミネラルを含む自然の塩がいい。海外から輸入される「粉砕塩」などを使えば安くすむ。

 エサが濡れないようにと、箱檻の上をビニールシートや段ボールで覆うのは逆効果。イノシシは警戒して中へ入らなくなる。とくに夏場はエサの腐敗が早いが、それを取り除かずに上から足してやればいいという。腐敗したエサの中ではカブトムシの幼虫に似たような3cmくらいの虫がわくことがあり、これがイノシシの大好物だからだ。

笹竹に囲まれた薄暗い場所は箱檻を設置するのに適している。
笹竹に囲まれた薄暗い場所は箱檻を設置するのに適している。白く見えるのがエサ。米ヌカを主にするのがいいが、なければドッグフードでもいい

集落で一人、狩猟免許を持てないか

「狩猟」としてイノシシを捕獲できる期間は11月15日〜2月15日だが、市町村役場に届けて首長の許可を得れば、そのほかの時期でも「有害獣」として捕獲できる。ただし、実際に捕獲する人には狩猟免許が必要だ。

 これだけイノシシの被害が増えると、田んぼや畑を囲って作物を守るだけでなく、里に下りてくるイノシシを捕獲することも必要だろう。須永さんはそのために、集落ごとに一人でも二人でも狩猟免許を取ることを勧める。高齢者が多い山間部などでは、農協の職員が代わりに取得してはどうかという。

「網・わな猟免許」を取得すれば、箱檻や足くくりわなを合わせて30カ所まで設置できる。集落内に箱檻をいくつか設置できれば、イノシシの被害を減らすのに力を発揮するはずだ。

*須永さん考案の箱檻についての問い合わせは、ワインセラー・スナガまで。イノシシの生態や被害の防ぎ方については、江口祐輔さんの『イノシシから田畑を守る』(農文協、1850円)が参考になります。ご覧ください。

「狩猟免許」を取るには

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