2010年02月12日

朝日新聞社会面

2月11日朝日新聞社会面トップに「DV警察に12回相談」との見出しが躍った。
「あ~、やっと・・・」という感慨とともに、遅すぎたとも思った。
2月10日の朝、宮城県石巻市で18歳の男性が交際中(といっても女性は自分の子どもを出産している)の女性を連れ出し、その際女性の友人と姉を刺殺したという凄惨な事件が起きた。
昨年の千葉県の事件を思い出すひともいるだろう。
千葉県の事件では、DVで警察にたびたび相談していた女性を、加害男性が連れ去り沖縄で逮捕されたというものだった。逃げる際に、被害女性の目前で母親を殺していた。
実は10日の夜、報道ステーション(テレビ朝日)にビデオ出演のオファーがあったのだが、残念ながら時間がなくお断りしてしまったのだ、もったいない。
宮城県警では、連れ去られた女性に「被害届を出すように強く勧めたが応じなかった。その後9日にも110番通報があり、10日に被害届を出すことになっていた」と発表している。その対応に問題はなかったと述べたとのことだ。

読者はこう思うのではないだろうか。女性のがわにも子どもの父親だから被害届を出して起訴したらかわいそうと思ったのではないだろうか。それだけ未練があったのだろう、と。
つまりもっと早く被害届をだしておれば、こんな事件にはならなかった=出さなかった女性が問題だ、と。

もし私が報道ステーションの取材にビデオで応じていたらこう述べただろう。
「現行のDV防止法は、被害者の妻が被害届を出して夫を起訴しない限り、夫の行動を制限することはできないのです。その場合の被害届は、街角で傷害を受けた被害届と同じ扱いとなります。」
「多くの被害者は夫を起訴することをためらいます。つまり夫を逮捕にもちこむのは自分にかかっているという点がためらわせるのです。もちろんそこにはわが子の父を犯罪者にしてしまうことへのためらいもあるでしょう。しかしもっと大きいのが、さらに恨みをかい、もっと激しい暴力として復讐されるかもしれないという恐怖なのです。」
「このような大きな関門があることがすでに諸外国ではわかっており、だからこそ警察の判断で加害者逮捕に踏み切るように法整備がされているのです。韓国も台湾もです」
「今回の事件、新年早々の大阪の猟銃殺人事件、昨年の千葉の連れ去り事件などなど、全部これらはDVが背景にあり、逃げて関係を断とうとする被害者への報復的殺人事件なのです。このような悲劇を繰り返さないためには、被害者が被害届をためらうほどに恐怖が強いことを警察が理解し、警察の判断で加害者を逮捕に踏み切ることを可能にするような法改正が早急に望まれます」
テレビでは語れなかったのでブログで代わりに意見を述べてみた。

虐待事件が起きると世論は盛り上がるが、DV事件はどうだろう。今回の朝日新聞の英断(DVという二文字をトップにもってきた)が、はたして世論を喚起できるだろうか。
何より、日本のDV防止法が東アジアではもっとも立ち遅れた内容になっているということを多くの人に知ってもらいたい。
トヨタのリコール問題で日本の経済状態が不安を招いているが、いくらGDPを誇ったところで、肝心の家族における弱者を守る法制度においてはもっとも遅れをとっているのが日本なのだ。

飲酒運転で子どもが亡くなったことから、運転者のアルコール問題に対するプログラムが実施されるようになった。秋葉原の通り魔事件が起きて、歩行者天国がなくなった。
凄惨な事件が起きると、きわめて迅速に政治は動き始めることがある。まるで人身御供であったように、2006年の奈良県の女子殺害事件も性犯罪者処遇プログラム作成へとつながった。
しかし、なぜ、家族(親密な関係)における殺人に対しては、日本の政治は放置したままでいるのだろう。
そこに何らかの意図、作為を感じてしまうのは私の考え過ぎだろうか。