歌声を披露するウィーン少年合唱団の団員たち=同合唱団提供
「天使の歌声」として日本でも人気のウィーン少年合唱団が転機を迎えている。声変わりすれば退団という伝統や厳格な寮生活が豊かな時代に育った子どもや親たちに受け入れられなくなり、入団希望者が激減している。合唱団は退団後の音楽大学進学を支援する付属学校の新設といった対応に乗り出した。
ウィーンの北部にたたずむ白亜の館に、毎朝、ボーイソプラノの澄んだ歌声がこだまする。栄華を誇ったハプスブルク家の人びとが狩りを楽しんだアウガルテン宮殿。ウィーン少年合唱団の本拠地だ。
緑に囲まれた広大な敷地に、合唱団付属の幼稚園と小学校、日本の中学校にあたるギムナジウムの下級校(5〜8年)がある。ここで才能豊かな子どもたちが寮生活を送りながら独自の音楽教育を受ける。栄えある団員になれるのは、下級校に所属する10〜14歳の約100人だけだ。
合唱団の運営は海外公演の収益や寄付で賄われる。団員にはギャラが支払われない代わり、負担する授業料と寮費は月々90ユーロ程度(約1万1千円)で済む。「経済的に裕福な家庭でなくても入団できる」(広報担当)のが売りの一つだった。
「人数的には足りているが、志望者は確実に減っている。昔に比べて質を維持するのが一苦労」。かつて自分も団員だったゲルハルト・ウィルト芸術監督(44)は嘆く。
入団希望者がピークだった1950〜60年代には約30人の募集枠に500人以上が殺到した。しかし、希望者は減り続け、競争率は最近では2〜3倍に落ちている。
ただ、どんなに優秀でも14歳でギムナジウムを卒業するか、変声期を迎えると親元に戻され、一般の普通校に転校する。将来、音楽関係の仕事に就くのは2割程度という。