鳩山内閣は、永住外国人に地方選挙権を付与する法案を今国会に提出する方向で調整している。
外国人への参政権付与は、民主党や公明党などが議員立法で何度か法案を提出し、廃案になった経緯がある。
政権交代によって今回、法案が提出されれば成立する公算は大きいが、国の主権が絡むだけに慎重論も根強い。
国益や国民の権利・義務、地方自治の在り方だけでなく、永住外国人の人権も絡む政策だ。慎重論や反対論を封じ込めて法案提出を急ぐのではなく、政府には幅広い議論を通して国民的合意を見いだす努力を求めたい。
外国人参政権については、民主党の小沢一郎幹事長が政府提出法案として早期成立を目指す意向を表明している。鳩山由紀夫首相も実現に前向きだ。
民主党などが過去に提出した法案は、日本に住む外国人のうち永住資格がある人に、日本国籍がなくても地方自治体の首長や議員の投票権を与えるというものだ。外国籍住民の立候補を認める被選挙権や、国政への参政権は含まない。
今回もこれに沿って検討されるとみられるが、民主党案では対象を「日本と国交のある国」としており、北朝鮮籍の永住者は除外される可能性が高い。
地方参政権は長年、在日韓国人の団体が求めてきた。日韓併合などの歴史的事情で日本に住み、戦後に永住権を取得した人たちだ。「納税義務を果たし地域社会と共存している」として「せめて自分が住む地方の選挙権を」と主張するのは自然な感情として理解できる。
しかし一方で、外国人への選挙権付与は「公務員の選定・罷免は国民固有の権利」と規定した憲法15条に違反するとの指摘がある。1995年に最高裁が、この固有の権利は「日本国籍を持つ国民にある」と判示した経緯もある。
地方参政権といえども、外国籍住民の投票行動が外交や安全保障など国の基本政策に影響を及ぼす、と懸念する声も少なくない。
こうした指摘が反対論、慎重論の論拠ともなっているが、最高裁判決は一方で永住者の地方選挙権について「憲法上禁止されていない」とし、立法措置で認めることは可能との判断を示している。
国政の場でも賛否は分かれる。与党でも社民党は選挙権付与に賛成だが、国民新党は反対、民主党内にも異論がくすぶる。野党も公明、共産両党は賛成だが、自民党内は反対論が大勢だ。
首相が1月半ばに法案検討を指示しても、政府・与党で議論が深まらないのはこうした事情があるからだろう。
とはいえ、外国人参政権は憲法や国益が絡むだけでなく、この国の人権意識や民主主義の成熟度が問われる問題でもある。当事者である地方の実情や声も聴いて国政の場で丁寧な議論が必要だ。
選挙対策や党利党略で結論を急ぐようなことがあっては、禍根を残す。
=2010/02/11付 西日本新聞朝刊=