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【さらば革命的世代】(5)リーダーから皿洗いに (2/4ページ)
■働くということ
昭和40年代前半に学生時代を過ごした「全共闘世代」はリーダー不在の世代ともいわれる。タレントや作家など個性的な才能を発揮している人は多いものの、与党政治家やカリスマ的な経営者は意外に少ない。総理経験者でいえば、小泉純一郎氏(66)から安倍晋三氏(53)までの空白の期間にあたる。
そうした理由の一つとして、当時の運動のリーダーたちが軒並み刑事処分を受け、社会の一線からはずれてしまったことを挙げる人もいる。彼らの中には予備校や塾で講師を続けたり、自分で小さな会社を起した人も少なくない。一般企業に入り、社長にまで昇進した福井さんは、相当なレアケースである。当時、会社側は彼の経歴を承知の上で採用してくれたという。26歳のときだった。
「大学に入学したころは商社に入りたいと思っていたし、先輩のツテで大手スーパーに誘われたこともあった。でもやっぱり逮捕された仲間のことを考えると自分だけが楽をしてはいけないと思った。就職するなら、大手ではなく、小さな企業や遅れている業界、自分が苦労しそうなところへ行こうと思っていた」
それは、高度成長が進むにつれて大学教育がマスプロ(大量生産)化し、「企業戦士の育成」や「学生の即戦力化」に主眼が置かれ始めていたことへの反発でもあったという。
入社当時は洗い場だけでなく、階段を磨き、トイレ掃除も繰り返した。「便所が汚いから、この店はまずい」。たまたま客に言われた一言が胸を突いた。
「それからは一生懸命でね。便器に素手を突っ込んで磨いていたら、お客さんから『料理うまかったよ』と言われてね。これが本当の労働だと感じるようになった。学生時代には『労働者大衆』なんてことを演説していたが、カンパでもらう1万円と、自分で汗をかいてもらった1万円は違うんだと…。働く人の世の中をつくろうと思ったら、まず自分が働かなくてはと思った。学生運動の帰結として、働き続けなくてはいけないと思った」