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【さらば革命的世代】(5)リーダーから皿洗いに (1/4ページ)
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■甘ったれた理論
大都市の繁華街にあるオフィスビル。事務スペースを仕切っただけの部屋が社長室だった。全国に100店舗以上を構える有名飲食チェーンの中枢とは、とても思えぬほど簡素だった。
代表取締役社長の福井悟さん(61)=仮名=はかつて、ある関西有名私大の学生運動のリーダーとして1000人規模の学生を率いていた。白髪交じりの短髪に濃紺のスーツ。社長相手に失礼だが、大手銀行や商社の重役といった方がしっくりくる。社内では、皿洗いの平社員から社長に上り詰めた立志伝中の人物として知られ、チェーンを全国規模に成長させた立役者でもある。
「言いにくい部分もありますが…」と前置きをしつつ、学生運動についてきっぱりと“総括”した。
「しょせん、コップの中のプチブル(小金持ち)学生の反乱だった。一時的に盛り上がった局面はあったが、学生は根を張っていなかった。その点、商売はすべて実証主義。お客さんがついてくるかどうかという価値しかない。甘ったれた理論で社会が動いているわけでないと、この仕事を通じて痛感しました」
昭和44年1月の東大安田講堂事件では、関西から約50人の“部下”を率いて籠城(ろうじよう)した。3回生のときだ。ただ、機動隊突入の寸前、このうちの約半数とともに撤退した。「全員が突き進めば、その後の運動を担うメンバーがいなくなる」という判断だった。
玉砕覚悟で権力と闘うことが美徳とされた時代背景からすれば、苦渋の決断でもあった。ただ、撤退組とともに大学に戻った後、逮捕された仲間の多くが長期間勾留されたことを知り、リーダーとしての責任を改めて感じた。運動の一線も退いた。「全員が釈放されるまでは…」と就職活動もあえてしなかった。気がつけば6回生になっていた。