(平賀秀明・訳)
(新潮社・2100円)
軍隊経験を持ち、冷戦時代から活躍してきたカナダ人ジャーナリストが環境問題を調べたら、<気温が2・6度上昇すると核戦争が起こる!>というとんでもない結論が出た。もちろん、単なるあおり文句ではない。
温暖化に興味を持ったのは、偶然だ。「3年前に、ペンタゴン(米国防総省)が地球温暖化を戦略的観点から調査していると知り、とても驚きました。当時のブッシュ政権は、事実上、この問題を無視していたはずですから」。取材を進めると、英独露印中など主要国の軍隊は、おしなべて環境問題を安全保障の課題として研究していた。一般には、ほぼ知られていない話だ。「温暖化に警鐘を鳴らす科学者の多くは、環境と軍事の結びつきに気付けなかった。軍事の知識がある私は、たまたま、そこに興味を持てたのです」
核戦争を予言するのは、米国の元国防長官、元国務長官が名を連ねる安全保障シンクタンクである。地球平均気温が2・6度上がれば、陸地で4度、極地はそれよりはるかに高温になる。こうして起きる干ばつや海水面の上昇は、経済危機や難民急増、排外主義、核拡散、そして戦争につながる。
こうした最悪のシナリオを描ける米国が、国際政治の舞台では、この問題で積極的に動けていない。「オバマ大統領は、CO2削減にぜひ取り組みたいと思っています。しかし、米国人全体はそもそも発想が楽観的すぎるため、環境政策は議会の承認も世論の支持も得にくい。次にカギを握る中国も、米国の出方次第なのに」
だが、希望はある。「各国政府は、温暖化を危機と感じる点では一致し、2度以内の上昇に抑えたがっている。人類は冷戦下、政治の力によって核戦争を回避し、生き抜くことに成功しました。奇跡はもう一回、起きていいと思います」<文・鈴木英生/写真・須賀川理>
毎日新聞 2010年1月31日 東京朝刊