AOはアドミッション・オフィスの略。論文、面接を中心に意欲や個性などを測り、大学が求める学生像に合った受験生を選抜する入試方法。学力試験偏重への反省から、1990年度に慶応大が初めて導入した。2000年度から九州大など国立でも始まり、実施校は年々増加。文部科学省によると、08年度は全大学の約65%に当たる498校が実施した。 入試方法に法的な定義はなく、試験内容は各大学で工夫できる。推薦入試と異なり、出身校の推薦状や内申書が不要な場合もあり、浪人生に門戸を開く大学もある。願書の受付期間にも制限はなかったが、学生を囲い込む“青田買い”を懸念した文科省は10年度から「8月以降」と設定した。基礎学力確保の観点から、国公立を中心に、AO志願者に大学入試センター試験を課す大学も増えている。
(2010年2月9日掲載)
高校入試でひずみが表面化した推薦制度だが、大学入試でも「学力低下の一因となっている」との指摘がある。だが現実には、少子化時代の学生獲得策として「やめたくても、やめられない」事情もあり、逆に推薦枠を広げる大学が増えている。学力確保か、定員確保か。九州の大学を舞台に揺れる入試事情を探った。
■ハードル
「新聞すら読めない。知識が中学生レベルの学生も少なくない」。九州北部の私立大。文系学部の男性教授は「もちろん推薦でも優秀な学生はいる」と前置きした上で「受験勉強の時間が少なくて済む推薦が、学力低下につながっているのは確かだ」と指摘する。
推薦入試は原則として、学力試験を課さない。書類(内申書など)・面接・小論文による選考が一般的で、高校の推薦状を必要としない自己推薦型もある。面接や小論文で意欲などを評価するAO(アドミッション・オフィス)入試を採用する大学も増えている。
文部科学省によると、全国の大学における2008年度の推薦入試の実施率は97%、AO入試も6割を超えた。この男性教授の大学でも、定員の半数近くを推薦・AO組が占めている。「少子化で学生確保が難しくなっている。定員を埋めるにはハードルを下げざるを得ない。とはいえ…」
■一石二鳥
こうしたジレンマは、全国の大学現場に広がっている。文科省の07年度全国調査でも、推薦入試を導入する学部の54%、AO入試を行う学部の61%が「入学者の基礎学力の担保に課題がある」と回答した。
ところが、現役学生の学力レベルが、必ずしも世間における大学の評価につながらない“からくり”がある。受験生が志願先を選ぶ際に参考にする偏差値は、主に一般入試前期の難易度が反映される。この枠を狭き門にして競争率を高め、学力の高い受験生を選抜すれば、偏差値が落ちない。
そうして一般入試枠から絞り込んだ分を、今度は推薦やAOに振り分ける。評価と定員確保を狙った一石二鳥の策。ある私大関係者は「一部の優秀な学生に依存する形で偏差値を保っている大学は少なくない」と打ち明ける。
日本私立学校振興・共済事業団(東京)によると、08年度決算で私立の約4割が赤字。経営環境が厳しい上、定員割れすれば補助金の減額もありうる。とはいえ「見掛け上の偏差値」(日本私立大学連盟)が許されるわけではない。
■全入時代
定員を確保しつつ、学生の質も落とさない−。この難題を解こうと、推薦・AO入試の見直しを試みる大学も出てきた。
大分大医学部は定員の一部を学校推薦からAO入試に切り替えた。「高校側でふるいをかける学校推薦より、大学として、複数回の面接などを通して本気度を見極められる」などの理由からだ。国公立で推薦志願者に大学入試センター試験を課す学部も増えており、今回は全国で123学部(前年比5増)が実施する。
「入学後」に対策をとる大学もある。鹿児島大は高校時代に未履修だった科目を中心に、新入生を対象とした補習授業を導入。私立でも福岡大が理系の推薦組を中心に、入学前に予備校などで受講しておくよう呼び掛けている。
それでも「さらに1年くらい補習をしないと追いつかない」(福岡県内の私大関係者)のが実情で、各大学は推薦枠拡大の副作用に頭を悩ませる。
大学・短大入学者数を志願者数で割った収容率は昨春、92%に達した。「大学全入時代」が目前に迫り、推薦枠拡大による学生獲得競争は今後、激しさを増しそうだ。九大の八尾坂修教授(教育行政学)は「入学時に基礎学力を確保するのが望ましい。同時に、卒業時に求める学生像を明確にし、入学後のサポート体制を強化する必要がある」と提言していた。
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