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社説

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郵政改革素案―金融の肥大化を危ぶむ

 「民から官へ」の逆流が憂慮される郵政改革の見直し。鳩山政権は何をどうするのか。その全体像を示す郵政改革法案の素案が公表された。

 事業の公益性をたてに見直しを正当化しているが、そこから浮かんでくるのは、巨大な郵貯をさらに肥大化させても国民が認めてくれるだろうという、甘い認識だ。

 素案は、これまで郵便事業に限られていた全国一律サービスを貯金や保険など金融業務にも広げるとしている。郵貯と簡保の限度額を引き上げないし撤廃することも検討課題としている。利用者の利便性が増すが、それで済む話ではない。

 大きすぎると批判されてきた郵貯や簡保の金融部門をさらに大きくして、収益を上乗せしようという戦略そのものに危惧(きぐ)を抱かざるをえないからだ。

 そもそも郵政改革で求めたいのは、郵便事業を立て直し、将来の国民負担を回避するための経営再建策だ。同時に、巨大な公的金融を縮小する方向で日本の金融システムのゆがみを是正し、公正な競争環境をつくり出すことが欠かせない。

 貯金などを集める力は強いが、企業への融資など運用力が極端に弱い郵政の金融2社を肥大させることは、民間の金融機関をいま以上に圧迫し、金融全体としての機能を低下させる。

 国債に偏っている運用がさらに偏重の度を増せば、目先の財政赤字を賄いたい政府には好都合かも知れない。だが、国債市場をいびつで暴落しやすい構造にしかねない。

 素案では、持ち株会社と4子会社の体制を、郵便と郵便局の2子会社を持ち株会社が吸収する形で3社体制にするという。それが収益性の強化につながるかどうか、不安もある。

 郵便局が提供する公共サービスや全国一律サービスの不採算部分などの費用は、政府が免税などで手当てするとしているが、これは一歩間違えれば政府頼みに陥る危うさがある。

 インターネットの普及で郵便の将来は厳しいが、そこを物流事業の拡大や、場合によってはコンビニのような小売りビジネスなども導入する覚悟で多角化を図りつつ、収益を確保していくべきではないだろうか。

 政治との癒着も警戒しなくてはならない。郵便局の公共性が高まるというのなら、社員には政治的な中立性が求められるべきではないか。

 現状のように政治活動が放任されるなら、融資をはじめさまざまな業務で情実が絡んだり、政治利用と結びついたりしかねない。それでは公共性に背いてしまう。

 物品調達や資金運用で地域を重視するとすればなおさら、国営時代のような選挙運動や政治家の口利きを禁じるための万全の手だてが必要だ。

枝野氏起用―「刷新」するべきは何か

 鳩山由紀夫首相が、枝野幸男・元民主党政調会長を行政刷新相に充てる人事に踏み切った。

 首相は「国民のみなさんに、民主党に対する信頼を再び高めていくために、彼に陣頭指揮してもらいたい」と、その手腕に期待感を示した。

 枝野氏は、昨年秋の「事業仕分け」で統括役を務め、担当閣僚だった仙谷由人国家戦略相を支えた人物だ。

 この春には、独立行政法人や公益法人、特別会計を見直す事業仕分けの第2弾が控えている。仕分けでマニフェスト実現の財源を工面するのは至難の業だ。昨秋に続く二匹目のドジョウがいるとは限らない。

 政策に明るく、経験も積んだ枝野氏のここでの起用は、順当といえる。

 ただ、今回の人事の意味合いがそう単純でないのは言うまでもない。

 枝野氏は党内で、小沢一郎幹事長と距離を置く有力政治家の一人だ。そのせいで、鳩山政権発足後、無役を余儀なくされたともささやかれてきた。小沢氏がかかわる土地取引事件については「身を引くことも含めて、けじめをつけることが必要」と主張している。

 政治とカネの問題で政権への信頼は揺らぎ、内閣支持率は続落している。選挙、国会から政策にまで至る「小沢支配」「小沢依存」の見方が定着し、鳩山首相への逆風が強まる。

 事件がひと区切りしたタイミングを見計らい、「非小沢」の枝野氏を起用することで、自分は小沢氏の言いなりではないと示したい。そんなねらいも、首相にあったのではないか。

 肝心なのは、それが首相の「小沢離れ」を直ちに意味するわけではないということだ。

 世論の多くは今、「小沢氏は幹事長を辞任すべし」としている。しかし、首相は小沢氏の続投を容認している。枝野氏の起用も、小沢氏の了解を得たうえでのことだ。

 小沢氏が受け入れられる範囲内で、なんとか政権の再浮揚を探っているだけでは、と見られてもしかたない。

 いま首相がなすべきなのは、小沢氏に国会の場で大方の納得のいく説明をするよう強く促すことである。不起訴は嫌疑が不十分だったからに過ぎず、潔白の証明ではない。説明責任を逃れる免罪符にはならない。

 それができないのであれば、首相はいずれ幹事長更迭の決断に追い込まれることも覚悟しなければなるまい。

 政権が負った傷は深い。ばんそうこうを張るだけで止血するのは難しいかもしれないが、そんなばんそうこうの役回りでは枝野氏も不本意だろう。

 「刷新」するべきなのは、よどみつつある政権と民主党内の空気である。その一役を枝野氏に期待したい。もとより、その最終的な責めを負うのは首相以外にない。

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