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きょうの社説 2010年2月11日
◎県内初の裁判員裁判 制度定着へ検証を重ねたい
殺人未遂事件が審理された県内初の裁判員裁判は、検察側の懲役10年の求刑に対し、
弁護側は懲役1年3月を主張し、この刑罰の大きな隔たりを前に裁判員は極めて難しい判断を迫られたことだろう。金沢地裁の判決は最大の争点だった自首の成立を認めた結果、検察側の求刑をかなり下回り、懲役5年6月となった。自首が成立するか否かは極めて法律的なテーマであり、その成否で量刑が大きく左右さ れる今回の裁判は、裁判員にとって人を裁くことの責任の重さや量刑を決める難しさに直面したに違いない。ましてや、県民の関心も極めて高い初めてのケースである。判決後の会見では、3日間の審理を通じて相当の重圧や緊張を強いられたことが率直に語られた。そうして導き出された結論を思えば、従来の判決とは違った特別の重みを感じないわけにはいかない。 昨年8月から始まった裁判員裁判の判決は全国ですでに200件を超えた。裁判所、検 察、弁護側ともに各地の事例を参考にし、分かりやすさという点では、努力を重ねた跡がうかがえた。 起訴内容に争いがなく、審理は目立った混乱はなかったが、県内2例目となる殺人事件 の裁判は3月に始まり、その後は否認事件や性犯罪、責任能力が争われる事件なども予想される。裁判員は一層難しい判断を求められるだろう。制度の真価が問われるのはこれからであり、法曹三者は裁判員の負担感に配慮しながら一つ一つの事例を丁寧に検証し、制度の意義が実感できるような裁判運営を心掛けてほしい。 今回の公判では2日目の審理が延びて評議が取りやめになったほか、最終日は評議に時 間を費やし、判決言い渡しが1時間以上遅れる場面があった。評議で裁判官と裁判員の間でどんなやり取りがあったのか分からないが、議論が白熱して時間が延びたのであれば、そこは弾力的に運用すればいい。決められた日程のなかに無理に押し込めようとすれば、裁判員が納得する結論も得られにくいだろう。 複雑な事件であるほど、真相解明と審理の迅速さのバランスは難しくなる。裁判所の訴 訟指揮が試されるのも、これからである。
◎イラン核開発問題 米中ロの足並みそろうか
イランが国連決議や国際原子力機関(IAEA)の提案を無視して濃縮度の高いウラン
の製造に着手したことを受け、オバマ米大統領は「濃縮をやめなければ制裁措置をとる」と警告した。国際包囲網を強めてイランの譲歩を引き出せるかどうかの最大の鍵は、米国と制裁に慎重な姿勢を見せてきた中国、ロシアの足並みがそろうかどうかにある。オバマ政権は先に公表した「弾道ミサイル防衛見直し報告書」の中で、イランや北朝鮮 の弾道ミサイルの脅威に対処するため、中ロとの協力関係の強化を模索する方針を打ち出したところである。緊迫度を増すイランの核開発問題で米中ロの協調がさっそく試されることになる。 イランがこれまで生産してきたのは、濃縮度3・5%の低濃縮ウランである。20%の 濃縮ウランの製造は初めてであり、あくまで研究用原子炉に使用するためと説明しているが、ウラン高濃縮化の目的が核兵器開発にあるという疑いは深まるばかりである。 このためIAEAは、イランでつくられた低濃縮ウランを国外で研究原子炉用に濃縮し 、イランに返還する案を提示し、受け入れを求めてきた。平和利用の目的にかなった穏当な方法と思われるが、イランは二転三転の末に提案を拒み、高濃縮化に着手した。 イランに対しては、資産凍結などの制裁措置がとられてきたが、ロシアと中国はイラン での原発建設や資源獲得のため、制裁に消極的であった。今後、国連の追加制裁決議でイランへの圧力を強化できるかどうかは、特に中国の対応にかかっている。 オバマ政権は、場合によって米国と同盟国で制裁措置をとる用意もあるという。米国内 には、イランの核開発問題で、日米同盟の強さが試されるとみる向きもある。日本としては、有志連合の制裁という事態も想定して、対処方針を考えておく必要があろう。 イランのウラン高濃縮化を止めるため、IAEAの天野之弥事務局長が汗を流している が、展望は開けていない。天野局長のバックアップも日本の務めである。
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