きょうのコラム「時鐘」 2010年2月11日

 殺人の時効をなくす刑事訴訟法の改正案が示された。人を殺しておいて「逃げ得」はありえないとの声はもっともである

内閣府の世論調査でも殺人事件の25年時効には54・9%が「短すぎる」と答え、そのうち49・3%が時効廃止を求めている。が、一つ問題が残った。今回の時効廃止案は現在進行中の事件にも適用する方針が出たことである

事件は、その事件の後にできた法律で裁いてはならない「事後法」という考えがあり、憲法も禁じている。現に5年前に殺人の時効を15年から25年に延長した際は、進行中の事件への適用を避けた。それが今回は適用する。被害者感情の重視は分かるが、憲法違反とみる法律家もいる

小沢民主党幹事長の「陸山会」が、政治資金規正法で禁止されている不動産を取得しているのも法の改正前に取得したものだったからである。改正法が過去にさかのぼって適用されるならこうはいかない

社会正義の実現のため法を改正する考えと、法の理念を曲げるなとの意見が対立する。善と善がぶつかり、悪が残ることにもなる。法律とは、正義とは、なんと難しいものか。