内藤陽介 (ないとうようすけ)
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 テロリスト図鑑:安重根
2005-07-09 Sat 08:48
 その昔、芥川龍之介は「善は悪の異名である」と書き記しましたが(猿蟹合戦)、ある現象に対して、立場が変わると正反対の評価が下されるということは、しばしばあります。

 たとえば、アメリカの建国の父とされ、日本でも道徳の教科書の定番ネタとなっているジョージ・ワシントンは、(少なくとも当時の)イギリス人にいわせれば、“盗人の頭目”でしかありませんでした。

 社会の秩序を脅かすテロリストたちを鎮圧するのは、国民の生命・財産を守る国家の側からすれば当然のことですが、一方、そうした既存の体制そのものに異議を唱え、その解体を主張する人たちからすれば、体制側が“テロリスト”と認定した人こそ、“英雄”ということになります。たとえば、植民地時代に民族解放闘争に従事していた“テロリスト”の中には、独立後、“民族の英雄”に祭り上げられ、国家のお墨付きを得て切手にまで取り上げられるようになる人物も少なくありません。

 そこで、どれだけ実例を挙げられるかわかりませんが、これから、このブログでは切手になった“(元)テロリスト”たちを不定期連載のかたちで紹介していきたいと思います。

 もちろん、僕は、これからご紹介していく“テロリスト”たちの主義主張に賛同しているというわけではありません。ただ、同じ事柄でも我々とは反対側から見たらどう見えるか、という視点の切り替えないしは頭の体操の材料を皆さんに提供できたら、と考えているだけなのです。この点については、くれぐれも誤解なきよう。

 さて、前置きが長くなりましたが、記念すべき第1回目の今日は、日本人にとっても超メジャーなこの人に登場してもらいましょう。

安重根

 切手に描かれているのは、皆さんもよく御存知の伊藤博文暗殺犯、安重根です。

 念のため、彼の個人データをまとめておくと、安重根は、1879年、黄海道の海州出身。1894年の甲午農民戦争(日本では、“東学党の乱”といったほうが通りが良いかもしれません)の際には父親と共に政府側の義兵を起こして農民軍と戦っています。その後、カトリックに入信し、日露戦争後、日本による韓国の植民地化が進む中で、これに反対する義兵闘争を展開。1909年、ハルビン駅頭で、前韓国統監の伊藤博文を暗殺しました。事件後、安は直ちに逮捕されて死刑判決を受け、1910年3月、旅順監獄で処刑されました。日本では国家の元勲を暗殺したテロリストですが、韓国では、独立運動の義士として、現在でも広く社会的な尊敬を集めています。

 さて、安重根が切手に取り上げられたのは、全斗煥政権下の1982年のことでした。当時、日韓両国の間では、日本の高校歴史教科書が、文部省の検定圧力によって日本の大陸“侵略”が“進出”にあらためられたという報道(後に誤報であったことが明らかになりましたが)をめぐって、いわゆる教科書問題が持ち上がっていました。これが、現代まで続く教科書問題のルーツとなります。


 こうした背景の下、当時の韓国政府としては、現在の大韓民国が日本による植民地支配とそれに対する抵抗運動を経て成立したという主張を、内外に広くアピールするため、このような切手を発行したものと思われます。その意味では、一昨日、7日の日記でも中国を例にとって少し書いたように、安の肖像は現代韓国の“建国神話”にとってきわめて重要なイコンとして、現在なお機能しているといってよいでしょう。

 なお、現在、韓国出身の芸能人たちが日本でも人気を集めていますが、彼らの中にも安重根への尊敬の念を堂々と表明している人たちは少なくありません。このため、“安重根は単なるテロリスト”という認識をもつ人たちの中には、そうした芸能人をCMに起用している企業の商品の不買運動を呼びかけるグループもあるようで、“テロリスト”と“義士”をめぐる歴史認識の溝は、思った以上に根が深いのだということを再認識させられます。


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この記事のコメント
前日では「顕韓流」本を基にして、ES細胞捏造と「ノーベル症」について取り上げますが、ここでは安重根について取り上げることにしましょう。ここで取り上げる資料は「マンガ嫌韓流の真実!」(宝島社)です。
「韓国の抗日ヒーロー安重根の悲劇」(同書41ページ)によると、安重根は日露戦争までは、極端な半日思想は持っておらず、未完となった自らの著作「東洋平和論」では大国ロシア=白人に勝利した日本を賛美していたとのことです。しかし、日露戦争後の日本が、日英同盟を結んだり、アメリカに仲裁を依頼したり、戦争自体が、「黄色人種対白色人種(先進国対後進国)」の戦いとみなされないよう配慮したことなど、理想と現実がかけ離れていたことに安重根は「裏切られた」と思うようになったようです。結局安重根は日韓併合に反対していた伊藤博文を射殺するという結果となったばかりか、日韓併合を加速させることにまで発展してしまったのです。伊藤博文の死については、韓国(大韓帝国)国内では、皇帝や政府、民衆までもが哀悼の意を示し、追悼集会までおこなわれていたとのことです。小生が眼を通した別の資料では、伊藤博文の真意は、韓国を日本の主導で強化し、日本の同盟国するというのが目的だったようです。「嫌韓流」関連の本を見ただけでも、安重根を先の見えないテロリストと評しています。テロというものは敵対する相手への威嚇が、目的であるわけですが、敵対する人物を殺しただけでは、それを受け継ぐ相手が現れるだけで、何の効果もありません。このコラムを書いた評論家三浦小太郎氏は安重根を過大評価をすることは「現実政治で妥協しつつ地道に結果を出していく政治的努力を軽視することにつながりかねない」と結んでいます。
ところで日本国内で人気を集める韓国芸能人が安重根に尊敬の念を堂々と表明しているのですが、その極め付けが、日本で人気の韓国人歌手BoAこと権宝雅(この際本名で書き記します)です。権宝雅は安準根を賛美する映画のPRに協力したり、安重根記念事業会に日本円で500万円を寄付して、感謝状と名誉会員の称号を受けており、この映画で韓国国民に愛国心を養えと主張して、「テロリスト記念事業」に寄付して、反日活動を展開しているのです。権宝雅は日本国内では親日ぶりをアピールしているのですが、おそらく営業用で親日を装ってると見て間違いないでしょう。(引用資料「嫌韓流反日妄言撃退マニュアル」晋遊舎・マンガ「嫌韓流1・2」以上に?極右的な内容)

一方、朝鮮民主主義人民共和国でも、安重根の記念切手が発行されているのですが、この切手についての記述はまたの機会に書き込みたいと思います。
2006-05-31 Wed 00:35 | URL | 大津太孝 #-[ 内容変更] | ∧top | under∨
 大津太孝様
 いつも詳細な補足解説ありがとうございます。
>>朝鮮民主主義人民共和国でも、安重根の記念切手が発行されているのですが、この切手についての記述はまたの機会に書き込みたいと思います。
 いつの日か、読ませていただけることを楽しみにしております。
2006-06-07 Wed 07:47 | URL | 内藤陽介 #-[ 内容変更] | ∧top | under∨
 先日は韓国における安重根の評価を自分なりに取り上げましたが、今回は朝鮮民主主義人民共和国から見た安重根を取り上げることとします。
  
 韓国における安重根の評価は、すでに書き込んでいるとおり、日本で人気の反日(?)歌手BoAこと権宝雅を筆頭として、安重根に尊敬の念を表しているのですが(韓国では安重根を嫌韓流派のように単にテロリストとする評価もまれにあるようです)、朝鮮民主主義人民共和国では、これが事情が異なります。

 意外なことですが、朝鮮民主主義人民共和国での安重根の評価は「救国の意思は認めるものの、伊藤博文の暗殺の手段は評価しない」というのです。理由は「日韓併合に反対していた伊藤博文を暗殺の対象に選んだ」というものです。また、映画「安重根 伊藤博文を撃つ」という映画も製作されているのですが、(小生はこの映画を見ていないのですが)映画では伊藤博文はさほど悪役として描かれてはいないようで、むしろ大韓帝国の売国的政治家を真に悪役として描いているとのことです。物語の最後には、処刑場に向かう安重根は自分を正しく導く(金日成のような)指導者にめぐり合えなかったことを嘆くという場面で映画は終わるようです。1982年2月16日(金正日総書記の誕生日)に朝鮮労働党の活動を称える切手が発行されており、その中の一種にこの映画のと思われるシーンが図案として採用されています。要するに朝鮮民主主義人民共和国における安重根の評価は金日成の反面教師として教科書に取り上げられていたのです。
   
 しかし、2004年9月21日、朝鮮民主主義人民共和国は「愛国烈士 安重根誕生125周年記念」の小型シート一種を発行しました。印面は安重根の正面写真を採用しているのですが、見逃せないのが小型シート地右下の図案です。そこには、安重根が倒れた伊藤博文を踏みつけて諸手をあげて万歳を叫ぶというどぎつい図案が描かれているのです。伊藤博文を朝鮮近代化の最大の恩人として称えている嫌韓流派からすれば、国辱ものの図案です。

 では、安重根が伊藤博文を暗殺したその当日の模様を簡単に取り上げてみます。

 1909年10月26日、伊藤博文は満州・朝鮮問題について帝政ロシアの蔵相ココフツォフと会談するためにハルピンに赴きました。午前9時伊藤らを乗せた特別列車はハルピン駅に到着。駅で出迎えたココフツォフらは車内で伊藤博文と懇談。列車から降りた伊藤博文はロシア守備隊の閲兵を受けました。そして日本人歓迎者の方へ伊藤が向かおうとしたそのとき、伊藤のハルピン訪問の情報を得ていた安重根は、群衆の中から発砲。発射された七発の弾丸のうち、3発が伊藤博文に命中。後の四発のうち、3発が随伴者の川上という総領事(この人のフルネームは調べきれなかったので判明しだい追記します。)、宮内大臣秘書官森泰二郎、南満州鉄道理事田中清次郎に当たりました。伊藤博文は「何者ぞ」といって倒れ、安重根はロシア兵に押さえられ、そのとき安重根は「コリア・ウラー」と三度叫びました。撃たれた伊藤博文は車内に運び込まれ、随行の医師小山善の応急手当を受けましたが、小山は伊藤が致命傷を受けていることがわかり、気付けにブランデーを飲ませました。安重根の狙撃だとわかると伊藤博文は「バカな奴だ」と言い残しその生涯を閉じました。(別の説では「他に負傷者はいないのか」と行ったとも言われます)
そして安重根は駅構内のロシア憲兵派出所に連行。ロシア始蕃裁判所検事らの尋問を受け、その日の夜に日本総領事館に護送されたのです
 (引用資料「安重根と高知県人」ホームページ)。ここで取り上げている小型シート地の図案にあるような、安重根が伊藤博文を踏みつけて万歳を叫ぶ余裕などあるはずが無いのです。目の前で狙撃しても多分無理でしょう。

 ここで朝鮮民主主義人民共和国が、金日成の反面教師として取り上げていたに過ぎなかった安重根を称える切手を発行した背景を取り上げてみます。ご承知のとおり、2002年の日朝首脳会談で、金正日自らが拉致被害者の存在を認めたことが発端となって、これがかえって日本側の反発を招き、「拉致被害者の解決なくして、国交正常化の道は無し」と日本側は表明し、経済制裁を声高に叫ぶようになるほどに朝鮮民主主義人民共和国に対して強硬姿勢を取るようになりました。(これが背景にあるのかこれ以降マスコミは「北朝鮮」とのみ表記するようになり、「朝鮮民主主義人民共和国」と正式名称を言わなくなりました)そのため朝鮮民主主義人民共和国は、安重根の誕生125年を称えるの記念切手を発行することで、強硬姿勢を取る日本を非難する目的でこの小型シートを発行したと考えられます。切手の表記にしても、韓国発行の切手では単に「安重根」と表記しているのに対して、「愛国烈士 安重根」わざわざ二重に表記し、しかも、実際にはありえなかった、安重根が伊藤博文を踏みつけるというどぎつい図案を用いるほどでした。また、翌年には、1905年の日本が大韓帝国を保護国化する第二次日韓協約100年(切手上の標記は「日帝の《乙巳5条約》捏造100年)の記念切手を発行することで、再び日本を非難しました。しかも図案は条約文書に「×」を入れるというこれまたどぎつい構図となっています。おそらく朝鮮民主主義人民共和国はこのような日本の植民地支配を取り上げて、現在の強硬姿勢をとる日本を非難する切手を発行するものと思われます。

 今回の書き込みはここまでとして、次回は日本における安重根の評価と伊藤博文を取り上げた官製郵便マテリアルについて書き込みをすることにします。なお、ここで取り上げた安重根の切手の小型シート地には、伊藤博文を踏みつけて万歳を叫ぶ安重根と共に、彼が獄中で書いた書物も取り上げているのですが、これについても次回に取り上げることにします。
2006-06-27 Tue 00:33 | URL | 大津太孝 #-[ 内容変更] | ∧top | under∨
#225 追伸
 昨日のの書き込みで、補足しておくことがあります。

 安重根は実はスケープゴートだったという説があります。これによると、事件当日に伊藤博文に同行していた外交官出身の貴族院議員室田義文の証言では、弾丸が伊藤博文に命中した位置と、命中した弾丸はカービン銃用で、安重根が手にしていた拳銃と一致しないことから、真犯人は別にいて、安重根は事件の真相を葬るためにスケープゴートになったという説が根強くあるといいます。
2006-06-27 Tue 23:03 | URL | 大津太孝 #-[ 内容変更] | ∧top | under∨
 大津太孝様
 いつも詳細な補足解説ありがとうございます。
 今後ともよろしくお願いします。
2006-07-05 Wed 18:02 | URL | 内藤陽介 #-[ 内容変更] | ∧top | under∨
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