県後期高齢者医療広域連合に絡む汚職事件で、添田町長の山本文男容疑者(84)が贈賄容疑で逮捕されてから、9日で1週間。町職員はトップ不在の中で新年度予算の編成作業に追われ、重要な決定は「町長に接見して指示を受ける」という異例の事態に直面している。また7月には町議が、来年1月には町長がそれぞれ任期満了を迎え、事件が両選挙に影響を与えるのは必至。霊峰・英彦山に抱かれた人口約1万1千人の町に漂う重い空気は、しばらく晴れそうにない。
「大まかな編成方針は聞いており粛々と作業を進めているが、今後、町長の考えの確認が必要になるかもしれない」
新年度の予算編成を陣頭指揮する職務代理者の寺西明男副町長は、硬い表情で語る。
町の方針を決定する重要な局面では「町長に接見して指示をあおぎたい」としており、弁護士を介したり、直接出向いたりして意向を聞く作業になるという。
町長逮捕後、初の週末となった6、7日。観光施設などはいつも通りの来客でにぎわった。道の駅「歓遊舎ひこさん」によると「お客さんから事件の話も出ないし、変化はない」という。
だが、週明けの8日、町役場の玄関とロータリーに「庁内の秩序の維持、適正な管理に支障を及ぼす行為をする者の進入を禁ずる」と記した看板と張り紙が登場した。「抗議団体が来るかもしれない」との県警からの情報提供に基づいての設置。9日、役場を訪れた50代の女性は「物々しい雰囲気で、かえって不安」とまゆをひそめた。
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1971年の就任以来、10期39年にわたって町政のかじ取りをしてきた山本町長。後援会幹部は「来年の町制施行100周年事業を自ら手掛けるため、11期目の町長選にも意欲を示していた」と打ち明けた。
99年から務める全国町村会長は2009年7月から6期目に突入。2年の任期を全うするためにも、来年の町長選をにらんでいたが、逮捕という事態に後援会幹部は「これからどうするか、会としては何も決まっていない」と言葉少な。
山本町長は、これまでのところ進退の表明はなく、住民からの辞職を求める声も、表立っては出ていない。70代の女性は「町長は私腹を肥やすのではなく、町村のためにやった。堂々と胸を張ってほしい」と述べた。
一方、町議の一人は「地方を代表する政治家として、晩節を汚すことなく、自らけじめをつけるべきだ」と強調した。
定数13の町議会の勢力は、町長派が6人、それ以外が7人とされる。町議選には今のところ、十数人が立候補する見込み。別のある町議は「もし町長辞職という事態になれば、後ろ盾を失って立候補を取りやめたり、逆に新しい人が次々に名乗りを上げたりと、大きな変化があるかもしれない」と予想している。
=2010/02/10付 西日本新聞朝刊=