隠ぺい体質で道を誤ったトヨタ
2月10日16時3分配信 ウォール・ストリート・ジャーナル
トヨタ自動車製の車が突然加速する問題については、6年の間に証拠が積みあがっている。この現象が衝突事故を引き起こし、これまで10人以上の死者を出したとみられている。
トヨタは1月19日までこの問題について、フロアマットにアクセルペダルが引っかかることが原因としてきた。しかし同日、同社の幹部2人が米ワシントンで監督当局に驚くべきことを告げた。同社はアクセルペダルの機械的欠陥を知っていたというのだ。しかも、1年以上前から認識していたという。
この会合について双方と話をした人物によると、米道路交通安全局(NHTSA)の2人の高官は「カッとなった」という。ストリックランド局長は会合の終わりに、NHTSAとして最も厳しい処罰を科すことをにおわせた。その処罰には、販売停止が含まれる可能性がある。
1年もの報告の遅れを含む今回のトヨタのリコール問題で新たに判明した詳細からは、NHTSAと同社との間に大きな溝があったことが分かる。連邦当局者や業界幹部とのインタビューや昨年の両者の会合の状況からすると、当局は安全に対するトヨタの姿勢を疑うようになったようだ。
消息筋によると、トヨタが米当局との間に抱える問題の核心は、安全上の問題について自動車メーカーに求める米国での開示要件と、日本における同社の隠ぺい体質の衝突だという。トヨタはNHTSAとの関係を維持するため元職員2人を採用していたが、関係は冷えていった。
同社は9日、プリウスの日本国内全車リコールに踏み切った。これについては必要ないと考える幹部もいた。
同社は、監督当局との溝を認めている。佐々木副社長はフロアマットに関して昨年12月にNHTSA当局者と衝突したことについて、考え方を変えたとした上で、NHTSAとまったく同じ考えであるため今後同じ問題は起こらないと訴えた。
問題の根源をたどると、新式のアクセルペダルを採用した2001年式カムリに行き着く。新式のペダルは物理的にケーブルでエンジンとつながっているのではなく、電子センサーを使ってコンピューター制御のエンジンにシグナルを送る。同じ技術は、レクサスESなどの車種でも採用された。主なメリットは燃料効率だ。
しかし、NHTSAは04年の早い時期までに、カムリとESのドライバーから、アクセルを踏まないのに加速することがある、との苦情を受けるようになっていた。調査官スコット・ヨン氏が作成した04年3月3日付の文書によると、NHTSAは37件の苦情を対象に加速について初の調査を初めた。このうち30件は事故絡みの苦情だ。
ミシガン州での訴訟でトヨタ幹部が提出した宣誓供述書によると、ヨン氏と別のNHTSA当局者ジェフリー・クアント氏は、その後20日の間に加速の問題についてトヨタと何度か協議した。訴えによるとこの事故では、05年式カムリが約400メートルにわたり制御不能になり、時速約40キロから128キロに加速した結果、衝突し、ドライバーが亡くなった。
トヨタは最終的に2007年型と2008年型のカムリとES350のリコールに踏み切り、所有者に全天候型のフロアマットを敷かないように呼びかけた。リコール対象車は5万5000台に及んだ。
リコール実施後も、問題が解決していない可能性を示す報告が断続的に続いた。ひとつの顕著な事例は、2008年にはミシガン州で発生した死亡事故だ。
同年4月19日、グアダルペ・アルベルトさん(77)が運転する05年型カムリは、ミシガン州フリントのコープマン通りを走行していた。現地の裁判所に提出された訴状によると、時速約40キロで走行していたカムリは、128キロに加速。その後約400メートル疾走して空中に跳ね上がり、2.4メートルほどの高さで木に激突、アルベルトさんは死亡した。この申し立てはミシガン州のジェネシー郡巡回裁判所で現在も係争中だ。
この事故でフロアマットが原因だったとは考えにくい。訴訟を担当する弁護士によると、アルベルトさんは事故の何日も前にフロアマットを撤去していたという。この事故は、04年、NHTSAが最初に調査に入ったときに調査の対象から外された「加速が続く現象」タイプの事故と似ている。
1年後 NHTSAは、ミネソタ州のある人物から調査を開始するよう依頼される。当人の所有するレクサスES350が、ハイウェイを走行中に加速、その後制御不能の状態のまま3キロ以上猛スピードで走ったという。トヨタはフロアマットが原因だと主張し、申し立てに反論する書類を提出した。
それとは別に、08年12月以降、トヨタの欧州部門はアイルランドや英国で報告された、車が急に加速し、減速ができなくなるという問題を調査していた。数カ月にわたってテストを繰り返した後、トヨタは原因を突き止めた。それは米国でも広く使用されている、ペダルシステムのプラスチック部分だった。
トヨタはペダルの設計をし直した。だが欧州でリコールを発表することも、米国の規制当局に通知することもなかった。詳しい関係者によると、トヨタは自社の米国部門に、欧州の状況を警告することもしなかったという。
先月、トヨタの佐々木氏は、欧州でリコールを実施せず、米国の規制当局に報告しなかった理由として、それが安全性の問題だとは思わなかったからだと述べている。
トヨタは、1957年から米国で事業を展開し、現地生産を約20年行ってきたが、現在も経営方針のほとんどを日本の本部が決定している。トップ経営陣に米国人の役員は含まれていない。トヨタのリコール責任者がいるのは12時間も時差がある日本だ。
トヨタの内部事情に詳しい複数の筋によると、こういった理由から、NHTSAに指摘された安全性の問題へのトヨタの対応は遅れがちになるという。
同筋は、「真の原因は、トヨタ内部のコミュニケーションが機能しなかったことだ」としてワシントンDCの事務所と日本の本部との間の隔たりを指摘し、「ワシントン事務所は(米)政府に提供するのに必要な情報を持っていない」と語った。
09年8月、米国で再び死亡事故が発生。この問題は米国民の関心を集めるようになる。ハイウェイパトロール警官のマーク・セーラーさんが運転していたレクサスES350が、カリフォルニア州サンディエゴ近郊を走行中、突然時速160キロ以上にまで加速したのだ。車は制御不能の状態になり、同乗者の1人が警察に電話で通報、緊急事態を伝えた。
「アクセルが戻らない」
警察の音声記録には、こう訴える通報者の男性の声が残されている。
「ブレーキが利かない・・・・交差点に近づいている。もうすぐ交差点だ。頼む、助けてくれ」
その後、車は衝突し、通信は途絶えた。この事故でセイラーさんとその妻、娘、親戚の男性を含む、車に乗っていた全員が死亡した。
テレビで放送されたこの音声記録が、インターネットを通して広がり、アクセル問題への関心が高まることになった。
【関連記事】
・ トヨタ、リコールの遅れが米下院でやり玉に
・ トヨタの2車種を安全上の問題で調査=米当局
・ プリウス、リコールを届け出=トヨタ
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トヨタは1月19日までこの問題について、フロアマットにアクセルペダルが引っかかることが原因としてきた。しかし同日、同社の幹部2人が米ワシントンで監督当局に驚くべきことを告げた。同社はアクセルペダルの機械的欠陥を知っていたというのだ。しかも、1年以上前から認識していたという。
この会合について双方と話をした人物によると、米道路交通安全局(NHTSA)の2人の高官は「カッとなった」という。ストリックランド局長は会合の終わりに、NHTSAとして最も厳しい処罰を科すことをにおわせた。その処罰には、販売停止が含まれる可能性がある。
1年もの報告の遅れを含む今回のトヨタのリコール問題で新たに判明した詳細からは、NHTSAと同社との間に大きな溝があったことが分かる。連邦当局者や業界幹部とのインタビューや昨年の両者の会合の状況からすると、当局は安全に対するトヨタの姿勢を疑うようになったようだ。
消息筋によると、トヨタが米当局との間に抱える問題の核心は、安全上の問題について自動車メーカーに求める米国での開示要件と、日本における同社の隠ぺい体質の衝突だという。トヨタはNHTSAとの関係を維持するため元職員2人を採用していたが、関係は冷えていった。
同社は9日、プリウスの日本国内全車リコールに踏み切った。これについては必要ないと考える幹部もいた。
同社は、監督当局との溝を認めている。佐々木副社長はフロアマットに関して昨年12月にNHTSA当局者と衝突したことについて、考え方を変えたとした上で、NHTSAとまったく同じ考えであるため今後同じ問題は起こらないと訴えた。
問題の根源をたどると、新式のアクセルペダルを採用した2001年式カムリに行き着く。新式のペダルは物理的にケーブルでエンジンとつながっているのではなく、電子センサーを使ってコンピューター制御のエンジンにシグナルを送る。同じ技術は、レクサスESなどの車種でも採用された。主なメリットは燃料効率だ。
しかし、NHTSAは04年の早い時期までに、カムリとESのドライバーから、アクセルを踏まないのに加速することがある、との苦情を受けるようになっていた。調査官スコット・ヨン氏が作成した04年3月3日付の文書によると、NHTSAは37件の苦情を対象に加速について初の調査を初めた。このうち30件は事故絡みの苦情だ。
ミシガン州での訴訟でトヨタ幹部が提出した宣誓供述書によると、ヨン氏と別のNHTSA当局者ジェフリー・クアント氏は、その後20日の間に加速の問題についてトヨタと何度か協議した。訴えによるとこの事故では、05年式カムリが約400メートルにわたり制御不能になり、時速約40キロから128キロに加速した結果、衝突し、ドライバーが亡くなった。
トヨタは最終的に2007年型と2008年型のカムリとES350のリコールに踏み切り、所有者に全天候型のフロアマットを敷かないように呼びかけた。リコール対象車は5万5000台に及んだ。
リコール実施後も、問題が解決していない可能性を示す報告が断続的に続いた。ひとつの顕著な事例は、2008年にはミシガン州で発生した死亡事故だ。
同年4月19日、グアダルペ・アルベルトさん(77)が運転する05年型カムリは、ミシガン州フリントのコープマン通りを走行していた。現地の裁判所に提出された訴状によると、時速約40キロで走行していたカムリは、128キロに加速。その後約400メートル疾走して空中に跳ね上がり、2.4メートルほどの高さで木に激突、アルベルトさんは死亡した。この申し立てはミシガン州のジェネシー郡巡回裁判所で現在も係争中だ。
この事故でフロアマットが原因だったとは考えにくい。訴訟を担当する弁護士によると、アルベルトさんは事故の何日も前にフロアマットを撤去していたという。この事故は、04年、NHTSAが最初に調査に入ったときに調査の対象から外された「加速が続く現象」タイプの事故と似ている。
1年後 NHTSAは、ミネソタ州のある人物から調査を開始するよう依頼される。当人の所有するレクサスES350が、ハイウェイを走行中に加速、その後制御不能の状態のまま3キロ以上猛スピードで走ったという。トヨタはフロアマットが原因だと主張し、申し立てに反論する書類を提出した。
それとは別に、08年12月以降、トヨタの欧州部門はアイルランドや英国で報告された、車が急に加速し、減速ができなくなるという問題を調査していた。数カ月にわたってテストを繰り返した後、トヨタは原因を突き止めた。それは米国でも広く使用されている、ペダルシステムのプラスチック部分だった。
トヨタはペダルの設計をし直した。だが欧州でリコールを発表することも、米国の規制当局に通知することもなかった。詳しい関係者によると、トヨタは自社の米国部門に、欧州の状況を警告することもしなかったという。
先月、トヨタの佐々木氏は、欧州でリコールを実施せず、米国の規制当局に報告しなかった理由として、それが安全性の問題だとは思わなかったからだと述べている。
トヨタは、1957年から米国で事業を展開し、現地生産を約20年行ってきたが、現在も経営方針のほとんどを日本の本部が決定している。トップ経営陣に米国人の役員は含まれていない。トヨタのリコール責任者がいるのは12時間も時差がある日本だ。
トヨタの内部事情に詳しい複数の筋によると、こういった理由から、NHTSAに指摘された安全性の問題へのトヨタの対応は遅れがちになるという。
同筋は、「真の原因は、トヨタ内部のコミュニケーションが機能しなかったことだ」としてワシントンDCの事務所と日本の本部との間の隔たりを指摘し、「ワシントン事務所は(米)政府に提供するのに必要な情報を持っていない」と語った。
09年8月、米国で再び死亡事故が発生。この問題は米国民の関心を集めるようになる。ハイウェイパトロール警官のマーク・セーラーさんが運転していたレクサスES350が、カリフォルニア州サンディエゴ近郊を走行中、突然時速160キロ以上にまで加速したのだ。車は制御不能の状態になり、同乗者の1人が警察に電話で通報、緊急事態を伝えた。
「アクセルが戻らない」
警察の音声記録には、こう訴える通報者の男性の声が残されている。
「ブレーキが利かない・・・・交差点に近づいている。もうすぐ交差点だ。頼む、助けてくれ」
その後、車は衝突し、通信は途絶えた。この事故でセイラーさんとその妻、娘、親戚の男性を含む、車に乗っていた全員が死亡した。
テレビで放送されたこの音声記録が、インターネットを通して広がり、アクセル問題への関心が高まることになった。
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最終更新:2月10日16時3分
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