現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

飲料統合破談―やってみなはれ再挑戦

 残念なことだが、キリンとサントリーの間で1年余りにわたって進んできた経営統合の交渉が、決裂した。

 国内飲料1位と2位の組み合わせ。合計すると米コカ・コーラを上回る世界屈指の規模の食品メーカーになる。昨夏、そんな大統合の構想が表面化すると、投資家や消費者から驚きと同時に歓迎の声も上がった。

 「国内勝ち組」の現状に満足せず、拡大するアジア市場に、そして世界に手を携えて打って出ようとする両社の積極性が買われたのだ。

 長引くデフレ経済のなかで停滞感が漂う日本全体を励ます効果もあったのではないか。その先駆モデルが幻と消えたのは、いかにも惜しい。

 決裂の原因は統合比率で折り合えなかったことだ。両社の統治哲学の違いもあった。内外に多数の株主をもつ上場企業のキリン。創業以来1世紀にわたりオーナー経営を続けるサントリー。溝は埋められなかった。

 両社に共通していたのは危機感だった。「世界市場で競争に勝つには、単独ではパワーが足りない」という認識である。それを克服するために取り組んだ大テーマが、同じ危機意識を持つ企業同士の統合だった。

 1990年代なかば以降にブームを迎えた日本の企業合併・買収(M&A)は、国内市場志向や敵対的な買収に対する防衛の色彩が強かった。キリン・サントリーの構想はグローバル化時代の「攻め」の選択だった。

 もちろん企業経営は拡大するばかりが選択肢ではない。小さくとも高品質のものをつくり続けたり、地場企業として地域の人々を支えたりするのも立派な行き方だ。キリンとサントリーもこの不況下でも業績堅調なのだから、現状のままでも当面は十分やっていけるはずだ。

 だが、両社の経営者の目はその先へと向けられていた。超高齢化、人口減少が進む国内消費市場に成長の余地は乏しい。そこにしがみついていても、それぞれが抱える数万人の雇用を守りつつ、海外の巨大企業に負けない経営を続けられる保証はない。

 一方、アジア諸国に目を向けると、高い成長が見込まれる市場がたくさんある。ここに人材と資金をつぎ込むには、単独では力が足りない。だから強い相手と組む必要があり、2社の組み合わせが浮かび上がったのだった。

 破談で戦略の練り直しを迫られるが、両社の問題意識は変わっていない。加藤壹康(かずやす)キリン社長は「アジア・オセアニアのリーディングカンパニー」を引き続き目標に掲げ、佐治信忠サントリー社長は「海外の相手を探す」と気持ちを切り替える。

 再挑戦への姿勢を尊重したい。サントリー創業者・鳥井信治郎氏が語ったように、「やってみなはれ」である。

パレスチナ―悲劇のガザを忘れない

 パレスチナ自治政府のアッバス議長が来日した。鳩山由紀夫首相と会談した。パレスチナでは2000年秋以降、イスラエルとの和平の枠組みが崩れたままになっている。首相と議長は中断している和平交渉を早く再開しなければならないことを確認した。

 だが、これまで何度も交渉が繰り返されながら、何ら進展もなく挫折してきた歴史がある。

 実質的な和平につながる交渉にするためには、前提を固めることが必要だ。交渉再開の最大の障害は、イスラエルが中東戦争で占領したヨルダン川西岸や東エルサレムのパレスチナ地区で進める入植だ。入植者は計50万人近い。鳩山首相はアッバス議長の主張を支持し、「すべての入植活動の凍結」の重要性を指摘した。

 中東和平を仲介する米オバマ政権も当初はイスラエルに入植の全面凍結を求めていた。が、その後「交渉再開の条件ではない」と軟化してしまった。

 入植地の拡張はパレスチナ人の間に強い不信感や怒りを生んでいる。和平推進派の議長にとっては入植凍結は譲れない線である。それを支持した鳩山首相の発言を評価したい。

 もう一つの課題は、双方の暴力の停止である。一昨年暮れに始まったイスラエル軍のガザ攻撃は、すさまじい惨劇だった。ガザ側で1300人が死に、300人以上が子供だった。

 昨秋発表された国連の現地調査報告書は、ガザのイスラム組織ハマスなどによるイスラエルへのロケット弾発射とともに、イスラエル軍による民間人殺傷に重大な国際法違反の疑いがあると指摘する。

 ガザ攻撃の停戦から1年が過ぎたが、地域の緊張は相変わらずだ。イスラエルによるガザ自治区の封鎖は続き、攻撃で被害を受けた住宅の復興も進んでいない。経済は破綻(はたん)し、医薬品も不足する。この人道危機を放置しては交渉を再開しても説得力を欠く。

 さらにハマスが支配するガザと、アッバス議長が率いるファタハが支配する西岸が分裂し、議長の指導力は大きく制約されている。

 もつれた糸をほぐすように、地域の正常化に向けた条件を地道に整えていくしかない。イスラエルと関係が深く、アラブ諸国とも連携できる米国には、ガザの悲劇を終わらせるために一層の努力をしてほしい。

 日本は「人道支援」を通じて強くパレスチナとかかわってきた。「架け橋としての日本」を掲げる鳩山政権にとっても支援強化を通じて存在感を示す時ではないか。

 アッバス議長は、今回の訪日で初めて広島を訪れ、原爆慰霊碑に献花した。その平和への祈りがパレスチナでも一日も早く実現することを願わずにはいられない。

PR情報