嵐のように、突然に
朝、人でごった返す駅の中、僕は憂鬱な気分で電車を待っていた。
高校に入学してから三ヶ月、もういい加減朝の通勤ラッシュに慣れてもいい筈なのに、どうしても毎朝ため息を吐かずにはいられない。
でもしかたない事だと思う。
だって、いくら高校生になったとはいえ、僕の身長は平均身長に遠く及ばない。
160cm前半の華奢な身体は、人込みに揉まれて目的の駅に着くまでにヨレヨレになってしまうのだから。
今日も今日とて僕の前後には沢山の人が並んでいるし、車両の真ん中付近で足を踏まれるのは必至だ。
ああ、帰りたい、と一日の始まりの時間にしてはいやに後ろ向きな事を考えつつ、ホームに滑り込んで来た電車のドアが開くのを待った。
乗り込んで数分。
何故か今日は運よくドアの直ぐ脇の手摺りを掴む事に成功した。
それだけで、ちょっとだけ気分が良くなる。
窓を流れる景色を見ていれば、人いきれもさほど気にならなかった。
だから、中々気付かなかったんだ。
信じられないくらい、欲望に満ちた目で僕を見ている人がいる事に。
でも誰が僕を責める事が出来るだろう。
だって此処は公共の場で、しかも僕は男だ。
どんなに背が小さかろうが、きちんと高校の制服を着ているし、髪の毛だって短い。
そんな僕を、性的対象として見ている人がいるなんて、夢にも思わなかった。
◇◇◇◇◇
(なんか…、当たる、かも…)
そう感じたのは、駅を出てから5分程経った頃だった。
僕のお尻の辺りで、ごそごそと動く何かがある。
(混んでるから苦しいのかな)
そんな風に、感じた違和感を悠長に分析していた僕を嘲笑うかのように、その何かはぐにぐにと僕のお尻を揉み始めた。
(な、なに?なんで!?)
一瞬、痴漢という言葉が脳裏を過ぎったけど、まさかそんな、と直ぐに打ち消す。
だってだって、そうでしょう。
僕は男なのに、それなのに…
(ヒッ、やだ、なんで…、やだよぅ……!)
何か、恐らく感触から男の人の手だと思うけど、それが僕のお尻をわしづかむ。
いきなり指のような物で谷間の奥にひっそりと隠された場所を刺激されて、キュッとお尻に力を入れた。
するとどうだろう。
お尻の肉に挟まれた指を、とてもリアルに感じてしまう。
(うぅ…、やだぁ、ぐりぐりしないでェ………)
少しでもその指から逃げたくて腰を前へ突き出すと、今度は後ろから覆いかぶさるように男の人のもう片方の手が僕の股間へと延びて来た。
「ヒッ……!」
恐怖で縮こまったペニスをズボンの上からクニクニと刺激されると、突然の事に思わず声が漏れる。
回りに気付かれてないかと慌てて辺りを見回す僕に構いもせずに、男の人はズボンのファスナーを下げて下着の間から僕の萎れたペニスを取り出した。
(いゃっ、やだ、やめてぇ……)
一旦離れた指が、直ぐに戻って先端を撫で回す。
ぬるぬるとした感触に、その人の指が何かに濡れているのだと知らされた。
「っ、ふ…、ぅ……」
(やっ、何ィ…!?)
恐らく唾液だろうそれを纏った指は、くるくると先端で円を描き裏筋を擽る。
びくびくと震えながら、僕のペニスは段々と硬さを増して行った。
(ん、くぅ…、やだよう、やだ……、気持ちイイよう………)
嫌がりながらも感じ始めた僕は、その頃になるとお尻の力も抜いていた。
弓反りになっていた態勢も前屈みになり、無意識に男の人に向かってお尻を突き出している。
「ハァ、アッ、ハァ…ン…」
荒い息を吐き出しながら、僕は既に他人から与えられる快楽の虜になっていた。
突然、全ての刺激が止む。
何故、という思いと、続きを望む思いとで僅かに上体を起こした時、自分のウエスト付近からカチャカチャという音が聞こえて来た。
驚いて下を向くと、その人の手がベルトを外してズボンのボタンに掛かっている。
こんな場所で下半身を全て露出する訳には行かないと慌ててその手を止めようとするが既に遅く、僕はズボンがずり落ちないように必死に掴んでいるしかなくなった。
(やだ、どうしよう…。僕何されちゃうの……?)
恥ずかしくて、堪らなく嫌な筈なのに、僕のペニスは一向に衰える気配すら見せず勃起している。
そんな自分の身体の反応に戸惑っていると、男の人の手が背中の部分から直にお尻の方に入って来た。
「ッ!!」
ペニスを弄っていた時と同様、濡れた指の感触がする。
その指はくるくると穴の周辺を撫で回すと、いきなりズブズブと中に入って来た。
「ぁうっ…!」
(なにっ、なにっ!?あっ、やだ…、そんな……ぐりぐりしないでぇっ!)
最初は入り口付近を出たり入ったりしていた指は、暫くすると更に奥へとズリズリ入って来る。
排泄感と微かな痛みに、目尻からはついに涙が零れた。
ペニスは既に萎れていたが、それでも、男の人の指は僕のお尻の中を弄る。
余りの気持ち悪さにフッと力が抜け、目の前のドアに寄り掛かった瞬間、指がズリュンッと更に奥まで侵入した。
「くあっ!」
身体をびくりと硬直させて、思わず小さな悲鳴を上げる。
それは痛みからではなく、何とも言えない感覚からだった。
(やぁっ…!何、コレ何なのぉ……!?)
がりがりとドアに爪を立てる。
今まで味わった事のないような、凄まじい快楽に、僕の身体は反り返って股間を冷たいドアに押し付けるような形になった。
僕の反応に気を良くしたのか、男の人は更に強く、ソコを刺激する。
ガタンガタンという電車の音に合わせて、僕のお尻からはぐちぐちといやらしい音が聞こえていた。
(んひぃっ!)
突然、指を増やされる。
二本のごつごつした指になぶられ、擦られ、気付けば僕のペニスは先端から透明な露を零して勃起していた。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、」
まるで犬のように舌を出して荒い呼吸を繰り返す。
余りの気持ち良さに思考が麻痺した僕は、自ら腰を振ってペニスをぐりぐりとドアに押し付けていた。
(ハァ、ハァ…ンッ、気持ち、イイ、よぅ……、ぁんっ!)
いつの間にか、また指が増やされる。
僕のお尻の穴は、三本の指をズッポリとくわえ込んでいた。
「んひっ、ふ、ひんんっ…!」
もう此処が電車の中だとか、人前だとかは僕の頭の中からはすっかり消えていたけれど、不意に感じた不躾な視線に横を向くと、ありありと欲を湛えた目と目が合う。
快楽に霞んだ頭でも、それが大変な事だと言うのは分かった。
(あ、あ…、見られてる……。僕、見られてるよぅ………)
熱く潤んだ瞳、羞恥と快楽で赤らんだ顔、くねる腰は既に剥き出しにされ、カッターシャツの裾を割ってピンクのペニスが顔を覗かせている。
こんなに側に居れば、お尻の音も聞こえているだろう。
不意に、ニヤニヤとこちらを見ていた男の人の手が延びてくる。
何をするのかと思ったら、僕の胸元をまさぐり始め、ギチィッと乳首をきつく摘んだ。
「キヒィッ!」
痛くて痛くて涙が出るのに、ジンジンと疼くソコから不思議な熱が生まれる。
張り詰めたペニスはもう限界で、零れる汁はもう白く濁り始めていた。
(あぁ、あ…、気持ち、イイ…、イッちゃうよぅ………、ダメ、ダメェ…、イクゥッ………!)
もうダメだ。
もうイッちゃう。
そう思ってああ、と天井を仰いだ瞬間。
プシュウ―――
「えっ?…ッア!アアアッ!!!」
突然開いたドアに驚くも、無理矢理極められた身体は止まる事はなく。
外気に曝された僕の勃起したペニスは、開いたドアの外側、ホームで電車を待っていたサラリーマンの人に向かってびゅくびゅくと射精してしまった。
「………え?」
サラリーマンの人が呆然と自分のスーツに掛かった僕の精液を見てる。
「あ…、あ、あ………」
ゆっくりと顔を上げたその人と目が合った瞬間、僕は弾かれたように走り出した。
ホームに降りてくる人達を掻き分けて階段を駆け上がる。
ずり上げただけのズボンからは萎えたペニスが出たままで、片手で覆ってかろうじて人の目からは隠されていた。
何も考えられず、目についたトイレに駆け込んで個室に入り鍵を掛ける。
やっと一人きりの空間に辿り着いた事への安堵に膝から力が抜けて、ドアを背にしてズルズルとへたり込んだ。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハアッ…」
狭い場所で、僕の荒い呼吸が響く。
不意に、先程のサラリーマンの人の顔が浮かんで来て、がくがくと身体が震え出した。
「ひっ…く…、うぅ………」
どんなに唇を噛み締めても鳴咽が漏れる。
涙が溢れ出して、どんどんシャツに染みを作っていった。
「うぅ……、ヒッ、ぇっ、ん……」
(何で、何であんな……、僕、どうしよう…)
見知らぬ男の人にペニスやお尻の穴を弄られて、乳首を抓られて、公衆の面前で人に向かって射精してしまった。
その時の事を思い出すと、羞恥に身体中が熱くなる。
堪らず下を向いて頭を抱えると、信じられないモノが目に入った。
本当に、信じられない。
だって、だって、どうして僕のペニスは勃起しているんだろう。
恐る恐る手で触れると、びくびくと跳ねて汁を垂れ流した。
「あ…、ああ………」
ギュッと握って、上下に扱く。
先走りが溢れ、チュルチュルと音を立てた。
「う、あ、あ…」
ごしごしと手を動かし、身体が欲しがるままにもう片方の手を奥の穴に延ばした。
湿ったソコに、中指を差し入れる。
ぐにぐにと入り口付近を弄るが、先程男の人に触られた時のような快感は得られない。
「んぅ…、やぁっ、もっとぉ………」
もどかしい感覚に焦れて腰を振るが、あの突き抜けるようなポイントには届かない。
それでも何とか快感を得ようと指を無理矢理三本に増やすと、拡げられる感覚に身体が震えた。
そして、自分の指で今日二度目の絶頂を迎えようとしたその時。
コンコン―――
(………え?)
僕の入った個室のドアが、ノックされた。
コンコン―――
僕が反応しないでいると、またもやノックされる。
(どうしよう…、もしかして、駅員さん!?)
先程のサラリーマンの人が何か訴え出たのだろうか。
どうしよう、どうしようと中に入れた指もそのままに逡巡していると、今度は外から低い声が聞こえた。
「すみません、ちょっと開けて頂けますか。
お客様」
お客様―――
(どうしよう!やっぱり駅員さんだ!僕、僕、捕まっちゃう………)
必死で考えている最中も、ノックと呼び掛けは止まない。
声には、段々と苛立ちが含まれてきたようだった。
(しかたないから、とりあえず開けて話しを聞いて貰おう。そうすれば、きっと僕が悪い訳じゃないって分かって貰える筈……)
意を決して、立ち上がる。
未だに勃起しているペニスをしまい、ズボンのファスナーを上げてボタンを留めるとドアの鍵を開けた。
ゆっくりと開くドア。
現れたのは―――
(あれ……?駅員さんて、制服着てなかったっけ………?)
何かが違う。
だって、この人。
アア、この人は……
「アアアアアア………」
僕が、痴漢されて、感じていたのを、じっと見てた人。
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