学校側の説明は、到底納得できるものではなかった。北九州市教育委員会にも、事件当日の「こころの健康調査表」で聞き取った内容や、学校側が作成した事故報告書の開示を求めた。しかし、市教委の答えは「現在も調査中」で、いずれも開示できないということだった。
もはや事実を知る手立ては、自ら匠の同級生の自宅を訪ね、証言を集めて回るしかない。そう決意した和子は由美子と、信頼できる友人の3人で、事件当日の話を聞き取るため5年3組の同級生の家を訪ね始めたのである。
4 真相
和子たちが集めた複数の同級生たちの証言を元に、3月16日の教室での様子を再現すると、おおよそ次のようなことになる。午後3時半頃のことだ。
翌日の卒業式の準備をする時間に匠とその友人ら数名は、棒状に丸めた新聞紙を持って遊んでいた。そのとき匠の持っていた新聞紙の棒が女の子に当たり、その子は別の女の子と二人で田中教諭にそれを報告に行った。報告を聞いて教室に戻ってきた田中教諭は、匠にいきなり大声で「なんしょったんね」「謝りなさい」と怒鳴った。匠が「謝ったちゃ」と言うと田中教諭はさらに「謝りなさい言いようでしょ」とまた大声で怒鳴った。
匠が「謝らん」と言い、さらに言葉を続けようとしたところで、田中教諭は突然、匠の胸ぐらを両手で掴むと、そのまま上に引っ張り上げた。匠は背伸びするような格好になった。田中教諭はそのまま床に押し倒した。起き上がろうとした匠は腕をひねり上げられ泣きながら「ごめんなさい」と言っていた。クラスメートは田中教諭の剣幕に驚き、教室はしーんとしていた。
匠が「帰る」と言うと、田中教諭は「勝手にしなさい」と叫んだ。匠は一度教室を出たが、水筒置き場にあったペットボトルを持って戻ってくると、泣きながら田中教諭にペットボトルを投げつけた。田中教諭は匠を「何で戻ってきたんね」と怒鳴りつけた。匠は自分のランドセルを取り教室を飛び出して行ったが、田中教諭は追いかけようともしなかった。