「遺族の方の意向で詳しいことは申し上げられません。遺族の方が『そっとしておいて、何も聞かないでほしい』と言っているので、保護者の方々もそっとしておいてほしい」
だが、遺族である和子たちは、その「詳しいこと」を聞かせてくれと求め続けていたのである。
ノートに残された叫び
児童集会、保護者会が終わっても田中教諭が仮通夜の行われている永井家に顔を出すことはなかった。さすがに和子のみならず親戚や近所、匠のバレーチームの父母らからも「非常識ではないか」という声が上がり始める。由美子は学校に電話を入れ、校長に「なぜ田中先生は来ないのですか」と聞いた。校長は、田中教諭は保護者会を欠席した家庭を回っているから、自分と教頭が行くと説明した。
「担任するクラスの児童が自殺して、丸一日経っても遺族の家に行かず、家庭訪問なんて」
「明日では駄目ですか?」
「明日、匠は斎場へ移されるので今日しか自宅にいないんです!」
「何時に斎場に行くんですか。その前では駄目ですか」
結局、田中教諭が遺族の前に姿を見せたのは、この日の午後9時過ぎだった。焼香を済ませた田中教諭は、あえて匠の棺から目を逸らしているように和子には思えた。昂ぶる気持ちを抑えられずに問いただした。
「匠が何をしたんですか! 本当に匠が女の子を箒の柄で殴ったんですか!」
「いいえ、紙を丸めたものが当たっただけでした」
「だけん匠の話をちゃんと聞いてやってくれって何回も頼んだやろ。匠は叩いてないんやろ、箒で叩いたって言ったやないね。匠の顔を見て謝って下さい」
田中教諭は小さな声でぽつりと言った。
「話を聞いてやらんでごめんね」
それ以上、何を尋ねても答えは返ってこなかった。校長と教頭に急かされるように、田中教諭は永井家を後にした。