第2回
「マスコミが駆けつけますよ」
和子は由美子に向かって叫んだ。息子は必ず助かる。息子が目を覚ます前に、母親の私が、息子が苦しんでいた原因をわかっておいてあげなければならない。
「また先生となんかあったんや! 先生に電話して!」
和子に言われるまま、由美子は学校に電話をかけ、匠の担任の女性教員である田中兼子教諭(仮名)を呼び出した。傍らでは救急隊員による心臓マッサージが続けられている。
「ああ、お母さん、匠君どうされていますか」
由美子は自分のことを匠の母親と間違えていると思ったが、田中教諭の口調から学校で何かがあったのは間違いないと確信し、そのまま話を続けた。
「『どうされていますか』って、何か学校であったんですか」
「今日女の子の頭を殴ったのできつく叱りました。きつく叱ったけど謝らないので胸ぐらを持って揺すったんですよ。そうしたら、匠君が倒れました。その後、匠君が私にペットボトルを投げつけて、教室から出て行ってしまいました。少ししたら戻って来ましたが、ランドセルを持って、またすぐに出て行ったんです」
由美子は、匠が自殺を図ったのはこの学校での一件が原因だろうと思い、田中教諭に向かって口調を強めた。
「先生、匠は先生に怒られて家に戻ってきて、そして自殺を図ったんですよ。先生は私の言ってる意味がわかりますか。先生に怒られて帰ってきて、すぐ自殺を図ったんですよ」
受話器の向こうで田中教諭の息を呑む様子が伝わってきた。その後、言葉を失ったままの田中教諭に校長と電話を替わってもらい、搬送先の病院名などを告げて電話を切った。
自宅から15分ほどの九州厚生年金病院に運ばれた匠は、ICUに入った時点ですでに瞳孔が開いた状態だった。