|
きょうのコラム「時鐘」 2010年2月10日
「今にして思えば」と振り返る。昨年の夏ごろからか、原稿に元気がなくなっていたという。急逝した作家の立松和平さんを担当していた本社記者の戸惑いである
2年間も本紙文化面に「立松和平の禅語を読む」を連載していた。栃木県の生まれだが、北陸の禅の道に詳しくて「北國文華」にも数々の寄稿や小説の連載があった。訃報に驚いた読者も多いことだろう。享年62。早すぎる 連載最後の昨年12月29日付に道元の言葉を引用してこう書いている。「一生は夢のようである。光陰は移ろいやすく、露の命は保ちがたい…」。別の回の記述も忘れられない。「明日のことをあてにしてはならない。ただ今日は命があるのだと考え」と 先日、もうひとつの体験があった。本紙「地鳴り」欄に投書を届けた78歳の男性が投函直後に亡くなったのである。その一文も最後に「健康であっても明日の人生は未知」とあった。しみじみと思う「人のまさに死なんとするその言や善し」(論語)である 著名な作家であろうと、市井の一投書家だろうと同じである。死ぬ間際の素直で飾りのない声と出会った縁を思う。 |