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日本財務省からの意見書に対するフィッチ・レーティング回答
2002年05月08 日 18:00
フィッチ・レーティングス―東京/ロンドン/ニューヨーク―2002年5月8日:
先般4月26日にフィッチ・レーティング(以下フィッチ)は、日本の財務省国際問題担当副大臣である黒田財務官から、フィッチの日本国債に対する格付に関する一通の照会状を受け取った。
その手紙は、以下の点についての釈明と詳細な説明を求めたものである。
1. 米国や日本のような先進工業国の場合、国内通貨建て債務の債務不履行というのは想像に難い。フィッチはいかなるリスクをもって厳密にデフォルトと考えているのか?
2. 政府債の格付は財務指標によってだけで評価されるべきではなく、広範囲に亘って、そして経済全般の幅広い状況、就中“経済のファンダメンタルズ"をもって評価されるべきである。この特質において、フィッチは以下のファクターをどのように評価しているのか?
a.マクロ経済の観点から見れば、日本は巨額の貯蓄残高を有しており、世界最大の経常収支黒字(900億米ドル)を計上している。
b.これによって日本は他の債務国とは違って、債務の95%を日本国内で安定的に非常に低い金利でファイナンスすることが可能である。
c.対外資産については、日本は世界最大の外貨準備(4,000億米ドル)並びに世界で
最大の純対外資産(1兆米ドル)を有している。
3. フィッチの日本国債格付と他の諸国との格付を比較してみると、国民一人当たりの国内総生産が日本の約1/3であり、対外的な分野及び工業競争力において大きく日本より劣っているエマージング・マーケットの国と日本の格付が同等になっていることがわかる。このような分析の矛盾をフィッチはどのように説明するのか?
本日フィッチ社長兼CEOのスティーブン・ジョイントは、以下の書面を財務省からの照会に対する返答として送付した。
黒田財務官殿、
拝啓 弊社の日本政府格付に対する詳細説明をご要望の、貴殿の2002年4月26日付け書面を拝受致しました。ご存知のようにフィッチは、最初に1998年9月に日本政府格付を格下げし、引き続いて後2回ネガティブ格付の手段をとっております。直近では、2001年11月に長期外貨建と長期自国通貨建債務の格付けを‘AA’に格下げ致しました。両格付は確定的なものではありませんが、これからの6〜12ヶ月の間に更なる格下げの可能性のあることを示唆するネガティブ・アウトルックとして取り扱われています。
フィッチは、弊社格付と格付行為が客観的で明晰なものであることの確約に最大の重要性を置いております。そして弊社は、弊社が格付を付与する政府やそれ以外のすべての発行体に対するのと同様に、日本のクレジット評価に対しても質の高い基準を適用しております。弊社の日本への格付の論理的根拠は、弊社の日本ソブリン・レポートに明確に述べられています。これらのレポートは財務省にも入手可能となっていますし、実際に「日本の財政苦境:くすぶり続けるのか、破局は差し迫っているのか」のコメントを含む最近のクレジットリサーチは、弊社ウェブ(www.fitchratings.com)上で自由にアクセスすることが出来ます。
フィッチの日本ソブリン格付AAに対する論理的根拠
弊社の日本ソブリン信用力に関する懸念は、公的財政が、経済不況特にデフレによって悪化が更に進んで、明らかに持ちこたえられない状況にあるということです。
・国内総生産に対する一般政府債務は既にG7諸国の中では最高水準にあり、ここ数年の仮借ない増加は、日本格付のAAよりワンランク低いAA−格付のイタリア、ベルギーを含む他の先進工業国における傾向とは純然たる対比をなしています。
・もし経済が実質的にも名目上も沈滞し続け、また一方で公的債務がこれまで以上に増えれば、日本の巨額の預貯金、経常収支黒字や極めて多額の対外資産、それにほぼ全ての公的債務が円建で日本国内で保有されているということや、また日本銀行が円発券の権限を有しているということを以ってしても、日本のソブリン信用力の継続的な低下を和らげるとしても防止することはできません。
・救済政策の実施を無くしては、日本政府は紙幣の発行か債務不履行のいずれかでしか抜け出すことのできない、国内債務の罠に填ってしまうかもしれません。そのようなシナリオでは、日本政府は巨額な国内債務の残高全額の紙幣発行に至るような財務破綻や経済不安のリスクを取るよりはむしろ、債券保有者との債務リスケジュール(返済繰延べ)を実施する可能性があります。加えて言うと、弊社はそのような最悪ケースのシナリオにおいては、国内債務と対外債務の取扱いにおける区別は殆どないと確信しており、それ故に日本の外貨建債務と円建債務の格付を同列に取扱うことを決定しています。
・公的債務へ更なる債務負担をかけると思われる銀行システム内における多大な偶発債務の存在は明らかである。現在のところは管理できるレベルにあるとは言え、構造改革のペースが進んでいない事によって、銀行部門の財務の健全性回復への最終財務コストが増えるリスクが出てくると思われます。
・財務システムの組織的で且つ劇的な破綻は、急激な取り付け(預金の引出し)や、資本の逃避を引き起こし、日本政府が国内民間部門の巨額預貯金から得ている財務上のベネフィットを徐々に弱体化させていくかもしれません。現時点では、弊社はこのリスクは小さいと判断していますが、このことは銀行のリストラの重要性をはっきりと物語っていることから、銀行預金の構成並びに水準、また金の販売のような資本逃避の現象をも同様にモニターしています。
しかしながら、弊社はデフォルト発生の可能性は低いということをはっきりと認識しており、日本の格付にこのことは反映されています。‘AA’格付のデフォルトの可能性は10年の期間で見ても、1%あるかないかの程度なのです。しかしながら、格付を通して弊社は、世界の投資家に対して近年重大な信用力にかかわる出来事が増加しており、最早‘AAA’格付に合致しないという事実を指摘しています。
弊社の日本に対する格付変更とコメントは、日本の信用力のファンダメンタルズの動きにを反映しています。日本に対する格付は依然としてネガティブ・アウトルックでありますが、経済沈滞の苦境下にも拘らず、2001年度における公的支出の抑制、道路や住宅公団を含む公社・公団の法人化及び民営化手続の開始計画、また日本銀行のマネーサプライ拡大といった、積極的な努力を含んだ政府の取組み努力と意図は、十分に認識しています。しかしながら、弊社の判断では構造改革は遅々として進んでいない。銀行部門の諸問題への積極的な解決法 ―たとえ、それによって短期的には公的財務と反対方向の関係が生じるとしても― 経済を中期的にはより高水準の持続成長へと回復させて、ソブリン信用力の更なる悪化を防止する鍵となるということを弊社は確認しています。金融庁の金融部門の健全性に対する最近の評価は、弊社の観点から見れば、不良債権の本当のスケールを炙り出していないと言わざるを得ません。このこと自体が早期の、効果的な対応への反対要因となっています。
グローバル経済と地域経済状況の両方の見通しが一層明るいことや、日本の国内景気に一時的な回復の兆しが見えることに反しますが、財政の立て直しや銀行部門の構造改革のスピードを加速することは、日本のソブリン信用力と格付の一層の悪化を未然に防ぎます。急な政策対応が取られて、デフレ圧力が緩和されているという証明を出さなければ、債務返済能力は更に悪くなり、日本のソブリン格付は低下し続けるでしょう。
最後に、貴殿が述べられている弊社の日本国債格付が国民一人当たりの国内総生産が遥かに低い、対外勘定や工業競争力も劣っている、所謂エマージング・マーケット諸国と同レベルである、という “分析上の矛盾"について説明しますと、弊社のソブリン信用力の評価は、貴殿からのご指摘の要因に加えて、より広範囲に亘る要因を考慮していますが、その中で最も顕著なものは財政の健全性であります。財政の健全性の観点から見ますと、日本国債格付と同等の自国通貨建債務格付を有しているこれらエマージング・マーケット諸国は、公的債務残高の水準は低く、且つ返済可能なレベルであります。とは言っても、これらの国の外貨建債務格付は依然として日本より低いものではありますが。
以上、貴殿からのご照会に回答する本書面において、弊社の日本ソブリン信用格付の評価に対する貴殿のより良いご理解が得られますことを切に願っております。
敬 具
スティーブン・W・ジョイント デービッド・ライリー
会長兼CEO ソブリン担当マネージング・ダイレクター
(本稿は原文英語版を元に作成した物です)
照会先:
西浦 貞輝 03-3288-2628