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豊崎由美・岡野宏文『百年の誤読』(ぴあ、1,680円)

 いま最もラディカルな読み巧者として、私は豊崎由美さんというライターを買っています。


 この方の批評の仕方が楽しみで、本や雑誌はもとより「ミステリチャンネル」まで欠かさずチェックし、さらにまたジュンク堂池袋店で半年ほど前に開かれたトーク・セッションも聴講してしまったほどですが、幸いにして美人でもなく、どちらかと言えばアンパンマン系なので、いっそう好感がもてます。失礼だぞ。


  私は、豊崎さんが薦めておられる本の数々そのものに共感を抱いているわけではなく、先ほども申しましたとおり、その批評の仕方がとても脳を刺激してくれるから、拝読拝聴を続けているのです。


 ミステリチャンネルでも恒例の書評対談相手となっている大森望氏との『文学賞メッタ斬り!』(PARCO出版)も楽しかった。これもお薦めです。
 彼女は、ミステリにきわめて強く、「おもしろいかおもしろくないか」の基準をきっちりもった書評者であると、これまで私は認識してきたのですが、この『百年の誤読』には、ぶっとびました。また新たなる領域侵犯です。

 松本清張の『砂の器』をトンデモミステリだと断じ、《だって、殺人の手段が超音波なんですよ、超音波》というような単刀直入が数百と続きます。
《養老孟司『バカの壁』は、とにかくタイトルが秀逸。ていうか、むしろタイトルひとり走り気味。わたしゃてっきり壁みたいに堅固なバカについての〔中略〕と思って読んだんですけど、まるっきり違いました。「ベカのカバ」くらいの誤読》
『ハリー・ポッター』についても、《成功がすべて約束されてる子どもの成長を読んでて、一体何が楽しいんだかね》(そりゃ楽しいんだよ豊崎さん)


 ともかく、一部を引用して足りるような本ではありません。全編、楽しめます。それに、笑える。


 彼女は一見、口汚い人のように見えます。
《恋愛とお金っていうのは近松の昔からメロドラマを成立させていく上で欠かせない二大テーマなんですね》と概括したかと思えば、徳富蘆花についても《その一方で、自分の原稿が粗末に扱われたりすると癇癪を起こしては妻に暴力をふるってたそうです》などと、なんでそんなによく知ってるのかというくらい、もちろんディープかつシャープなのですが、その場で思いつきを言っているのではなく、とてもまじめで誠実な人だと私は思います。


 ミステリチャンネル(での書評対談や年間ベスト10選定会議)を見ていても、必ず膨大なメモ書きを手元に置いているからです。
 本書でも、欄外注記の充実ぶりは、なにもここまでやらなくても、というくらいのサービス精神で、この仕事ぶりを見ただけでも「フリーライター」という肩書きが最も映える人だという思いが募りますね。


 ド突き批評の数々は読者のお楽しみにとっておくことにして、本書を通じて私がいちばん知りたかった(考えたかった)のは、明治、大正、昭和、平成と経るにしたがい、果たして日本の文学の質が下降しているという説は正しいのかどうか(私は、例えば宮部みゆきが明治や大正はもとより、戦後間もなくですらあのような作品を書いていたら、日本の文学史はまったく違ったものになったろうと思うので)という点について、トヨサキはこう断を下していたので蒙が啓かれました。


《岡野 日本文学全体のレベルが落ちてるってことなのかな?
 豊崎 そうじゃなくて、レベルの下層部がどんどん厚みを増していってるん
じゃないですか》


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