ジャンプSQ.
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マンガ家 直撃インタビュー[モノガタリ]

――今月号からいよいよ新連載『迷い猫オーバーラン!』が始まりましたね!「週刊少年ジャンプ5・6合併号」には読み切り『フタガミ☆ダブル』も掲載されていますし、『To LOVEる-とらぶる-』連載終了から休む間もなくどんどん執筆なさっています。

●矢吹 そうですねえ。全く休んでないです。

――少し休みをください、みたいな相談はされなかったんですか。

●矢吹 働いていたほうが、気が楽なんですよ。仕事してないと、不安なんです(笑)。連載するようになってからは、休みの日も「漫画を描かなくていいのかな?」みたいに思ったりして(笑)。

――週刊ペースから月刊ペースになることに関してはいかがですか。

●矢吹 自分にとっての月刊ペースというのがどういうものになるのか、体感するのはまだこれからって感じですね。今はちょっと、本当にいろいろ重なっていまして。抱えている仕事量のことを、あんまり考えないようにしています(笑)。

――単純に計算すると、これからは絵にかけられる時間が増えそうですが。

●矢吹 ただ、僕は凝り始めると止まらない性格だというのが自分でわかっているので……。週刊連載の感覚のまま、時間制限がある中でクオリティーの高いものを描く、という方向でいこうと思っています。時間があればある分、描き込んじゃうんですけど、必ずしもそれがいいというわけではないんですよね。手を入れすぎてちょっとおかしな方向に絵が変わっちゃったり、画面がごちゃごちゃして見づらくなることもあるので。

――なるほど、「漫画として」いい絵という程よいところがきっとあるんでしょうね。

●矢吹 そうですね。ここはもう少し手をいれるとか、ここはこのまま残すとか、原稿を見ながら決めていこうと思っています。

お色気シーンで得をするのは主人公ひとりだけ!

――『迷い猫オーバーラン!』は、『To LOVEる-とらぶる-』に続いてラブコメ作品ですね。

●矢吹 そうですね。『To LOVEる-とらぶる-』をやってみて、ラブコメっていうジャンルを僕はすごく好きなんだな、と思いました。

――どういうところがお好きですか?

●矢吹 気が重くならないというか、元気になれますよね。もちろん重い作品も好きだし、バトルものも大好きなんですけど。自分が描くに当たっては、やっぱり女の子キャラを描くのが楽しいのでこのジャンルは肌に合っているんだなと思います。

――『To LOVEる-とらぶる-』の前は、女の子を描くのはそんなにお得意ではなかったようなこともおっしゃっていました。

●矢吹 おっさんを描くのも楽しかったですしね(笑)。でももともとはデビューのきっかけになった手賞で秋本治先生に「女の子がかわいい」と言っていただいていたので、やっぱりその部分を突き詰めて頑張ろうと思ってはいました。どの連載でも、ヒロインはかなり重要視している感じはありますね。男だけの作品というのは、僕は絶対描かないと思う(笑)。

――ラブコメを描くにあたって守っていらっしゃることがあるそうですね。

●矢吹 特にお色気シーンとかなんですけど、何ていうのかな……得をするのは主人公だけ、と決めてるんですよ。主人公の友達とか、周りにいるキャラも一緒にお色気シーンでいい目にあうのは、僕はちょっと違うかなと思っていて。わかります(笑)?

――主人公ひとりが、その状況を楽しむのがいい、ということですよね。

●矢吹 ええ。読者は、主人公なんです。主人公に感情移入して読むので、自分だけが得をしたい、主人公だけに得をしてほしい、と思うはずなんです。独占したいと。

――そういえば『To LOVEる-とらぶる-』の「猿山」は、絶対にいい目にあったりしないですもんね。

●矢吹 そうそう、猿山はいいシーンになるとその場から省かれるんです。どっかに行っちゃう(笑)。

――ちょっと背徳感もあったりして。

●矢吹 うん。自分だけ、友達には秘密、みたいな。

――『迷い猫』の場合は主人公・巧の周りに主要なキャラクターとして男の子の親友が二人出てきますが……。

●矢吹 もちろん原作で描かれている男の友情みたいなところは、きちんと描くつもりです。でもお色気的なところでは、漫画版ではやっぱり主人公だけにすると思います。

――なるほど!

●矢吹 それから、主人公が読者だと考えたとき、もう一つ気をつけていることがあって。複数の女の子が出てきた場合、主人公が自分の好きなヒロインとは違うキャラとくっついてしまうとがっかりするんですよね。「自分の好きな女の子がふられた!」と。だから『To LOVEる-とらぶる-』でも、最後までそれは悩んだところでしたね。

――絶妙なエンディングでした。

●矢吹 もう、すっごく悩んで。何か月もかけて、原作の長谷見さんと討論したんですけど、結局、あの終わり方が一番いいんじゃないかという。どのキャラを好きでいてくれる人にも、なるべく納得してもらえる方向性を模索したのがあれだったんです。

――「恋愛」の要素が入ってくる作品は、そのあたりは重要なんですね。読者の気持ちを大事に、と。

●矢吹 そうですね。やっぱり締めで、読者をあんまりがっかりさせたくないというのがあるので。

女の子同士のドロドロは出したくない

――『迷い猫オーバーラン!』の原作を読まれて、どんなところに魅力を感じましたか。

●矢吹 出てくるキャラが、みんなそれぞれやさしいんですよ。それで自分がこの作品と波長が合っているんじゃないかなと思いました。嫌な女の子はなるべく入れないようにしたいんです。『迷い猫』は、ケンカとかしても、かわいい感じなんですよね。女の子同士のあまりリアルにどろどろした感じは出したくないので、よかったなと思います。完全に娯楽として見てほしいというか、読者が楽しめる方向にしていきたいので。

――今回の女の子たちは、『To LOVEる-とらぶる-』と比べて、より女の子っぽいというか、きれいというよりはかわいらしい感じですね。

●矢吹 あ、そうですね。かわいい系ですね。もともと原作でイラストを描いていたぺこさんの絵がそういう路線なので、あまり変え過ぎないようにしたいと思っていて。そこに自分のタッチをどの程度まぜるかなんですが。原作のイラストが好きな人にも納得してもらえるようにしたいし、『To LOVEる-とらぶる-』から自分の絵を見てきた人にもOKな感じにしたいですし。その見きわめが、まだちょっと難しいところです。

――描きながらさぐっていく感じでしょうか。

●矢吹 ええ。そこはやっぱり、数を描いていかないと出てこない部分かもしれないですね。

――でも例えば予告カットだけ見ても、体のラインの……特におなかのあたりのふわっとしたラインの美しさというのは、矢吹先生ならではという感じがします。

●矢吹 ああ、ありがとうございます(笑)。女の子の体を描くのは、本当にずっと苦労してきたので。いまだに、体をうまく描くというのはテーマですね。やっぱり難しいんですよ。

――どういったところが難しいんですか。

●矢吹 漫画的にきれいに見えるシルエットにしつつ、リアルな、むちむちした肉感的な感じも出しつつ、でもリアル過ぎず……という。『To LOVEる-とらぶる-』の後半では、大分描き慣れてきましたけど、まだまだ勉強しなきゃなという部分があります。

――今回も女の子がいっぱい、というシチュエーションですが、女の子の描き分けというのもやはり大変だったりしますか?

●矢吹 『To LOVEる-とらぶる-』のときもみんな「同年代」の女の子で、しかも「みんなかわいい」という条件が重なっていたので、結構苦労しましたね。大人っぽくとか、子供っぽくとか、そういうのがあると、描き分けはしやすいんですけど。しかも自分の好みの顔、っていうのも考えていて。自分がかわいいと思える顔を描くと、どうしても似通ってしまうんですよ。そこにどう変化を出していけば見分けがつくようになるのかというので、苦労した感じですね。『To LOVEる-とらぶる-』ではかなり自分の引き出しを使い切っちゃったかもしれない(笑)。