長谷川 そうです。「嘘吐き」というラベリングをされると、自分でもそのラベルを見ちゃうんですよ。あぁ、ぼくは「嘘吐き」なんだとね。で、半自覚的あるいは無自覚的に「嘘吐き」な自分を証明するかのような行動をとらざるを得なくなる。
柳 どうして、「嘘吐き」のラベルが嫌だから、「嘘吐き」のラベルを剥がして見せよう、ということにはならないんでしょうか?
長谷川 いったんラベリングされると、払拭できるものだという発想が生じにくいんです。子どもは、貼られたラベルが正しい、と納得するしかないんです。そのラベルを疑わないまま成長すると、大人になっても同じことが起きるでしょう。それで今、柳さんは息子さんとの関係で困り果てているでしょ? ラベリングの過程やメカニズム自体が本人に自覚されませんし、嫌だから剥がそうなんて単純に済む問題ではないんです。
今はまず、ラベリングの補強を止めるために、現状はよしとするしかない。しばらく繰り返すと思いますが、今は、息子さんがどんなに悪いことをしても、どんな嘘を吐いてもよしとするしかないんです。オーケーです。そして、そんな息子さんをよしとする自分にもオーケーを出す。
柳 でも、八月一日の第一回目のカウンセリングでもお話ししたんですが、学校でも、つぎつぎと問題を起こすんですよ。今、学校で問題になっているのは、体操服を忘れたと嘘を吐いて体育を見学する、ということなんですよ。今度、個人面談で話し合いを持たなければならないんですが、「よし」とするわけにはいかないし、「ご家庭でも、よく言って聞かせてください」と言われれば、「嘘を吐いてはいけないよ」と言って聞かせるしかなくなりますよね。
長谷川 「ご家庭でも、よく言って聞かせてください」という、これがね、子育てで四苦八苦している母親たちを追い詰める、そして子どもへの縛りを強くする悪の囁きなんですよ。教育のプロを名乗るからには、子どものそういった問題行動の背後には様々な事情があるんだということに配慮してほしい。教師は個々の事情に眼差しを注ぐ必要があると思う。
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