柳 今、息子が彼をすごくかばってるんですよ。私が彼に不満や怒りの矛先を向けようものなら、「ママ、それは心の中で思ってるだけにしな。お兄さんには絶対言っちゃ駄目だよ、喧嘩になるから」とか注意するし、私が彼を怒鳴りつけると、「お兄さんは、言わなくてもわかってるって!」とか「お兄さんは、嫌だって!」とか、完全にあっちの味方につくんです。
長谷川 息子さんは、小学校時代の柳さんと似ていますね。同じ役割を担っている。大人の世界を生きている。大人の理屈で判断している。大人の目で物事を捉えようとしている。それでも、今の柳さんにとっては息子さんの問題に目を向けるのは、時期尚早です。
柳 でも、今、長谷川さんは、息子が子ども時代の私と同じ役割を担っているとおっしゃいましたよね? そうすると、息子が、大人になって、結婚して親になったら、やっぱり、今の私みたいに自分の子どもにどう接していいか困るようになるんでしょうか?
長谷川 でしょうね。今後、息子さんに救いの手がはいれば別ですが。
柳 救いの手というのは、第三者ということですか? 同居している彼ではない? 彼は息子の支えにならないんですか?
長谷川 うん。だって、息子さんが彼に加担しているということは、それだけ彼をモデルとしてね、同一化していく度合が高いということにもなるんですよ。男の子は身近な男性をモデルにしてアイデンティティを形成しやすい。で、息子さんがモデルにするのは、怒りの矛先を自分に向けて、自分の顔や体を殴りつけるという彼の自虐的なスタイルですよ。それは、つまり、悪いことをして叱られる、という今の息子さんのスタイルと裏腹な関係にあります。息子さんは、すでに叱られるために敢えて悪いことをするという、大人との自虐的な関係性の中で生きているんですね。おそらく息子さんは「ぼくは叱られる子なんだ」という自己信念を作りかけている。その信念を崩すためには、どんなに悪いことをしても、どんな嘘を吐いても、叱らないという処方箋が出てきます。嘘を吐いても叱られなかったら、それまでのパターンは崩されて嘘は吐けなくなる。
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