柳 う〜ん、でも、私にとって小説を書くということは、自分の疵のかさぶたを剥がして、疵口に指を突っ込んで、もう一度血を流して、もう一度痛むみたいな行為なので、一般社会で仕事をして、かさぶたを隠して、疵を負ったことを言わないでいる方たちとは違うんじゃないかと。決して特権意識を持っているわけではないんですが、書くことを仕事に選んだ十八歳のころから逃亡犯みたいに完全に孤立して、将来もない、居場所もない、誰にもなつかない、という野良犬みたいな生き方をしてきたので、自分に踏み込むことに関しては、躊躇いを感じません。虚勢というか、啖呵みたいなものかもしれませんが(笑)。
長谷川 ここまでカウンセリングを行ってきて、多少ショックを受けたところはなかったですか?
柳 うーん、そうですね……母親の言動が虐待の範疇にはいると指摘されたことですかね……。
長谷川 うん。柳さんは、かわいそうだと思っていたからね。
柳 彼女なりに精一杯がんばっていましたからね……。
理想の母親って、どんな母親なのか……
長谷川 でもそれ、ご自身にも同じことが言えるんじゃないですか? 過去の疵を抱え、仕事を抱え、我が子を他人に迷惑をかけない人間に育てたいという親としての願いを抱えて、精一杯がんばっているんじゃないですか?
柳 私は、それを息子に言ってしまっているんです。言うことを聞かなかったり、嘘を吐かれたりするたびに、「ママは、毎日毎日精一杯がんばってるのに、あんたはなんなのッ! ママの邪魔をするために生まれてきたのッ!」って……。
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