紙面復刻:吉田秀彦が男涙の金メダル
●1992年8月1日付の日刊スポーツから●
柔道78キロ級の吉田秀彦(22=新日鉄)が、男涙の金メダルで日本柔道の救世主となった。切れ味鋭い内また連発、1回戦から6試合すべて一本勝ちの快勝だ。柔道陣の金1号に輝き、有力候補敗退の暗いムードを一掃した。オール一本勝ちの優勝は日本人4人目、78キロ級は初制覇となった。
一番喜んでくれるのは、古賀さんかもしれない。表彰台の一番上。吉田秀彦は日の丸を見て、そう思っていた。決勝はモリスを得意の内またで鮮やかに投げ飛ばした。勝利を確認したあと、吉田はもう涙が止まらなかった。だれかれなしに抱きつき、泣きじゃくった。そんな感激も表彰式でやっと落ち着き、やはり先輩古賀のことが頭に浮かんだ。
「心の優しい子だから。稔彦は秀彦のせいとは考えていないのに、秀彦は心を痛めていた。だから、あの日以来、あいつの打ち込みを受けてやったんです」。弦巻中、世田谷学園を通じて古賀稔彦、吉田を教えてきた吉村和郎コーチは、まな弟子二人の気持ちをおもんぱかった。
心も体も苦しい勝利。5月31日に実業柔道大会(盛岡)で左足首を故障した。本格的に練習に打ち込めたのは、バルセロナ入り直前からだった。焦る気持ちを察していたのが古賀だった。「あいつとやる方が真剣になるから、いい練習になるんです」と、あえて体重の重い吉田の乱取りの相手になった。その結果がバルセロナ入りしてすぐ、古賀の不運な左ひざの故障につながった。
古賀を含めて周りが「お前のせいじゃない」という度に、内心では責任を感じていた。中学、高校、そして講道学舎で柔道を学んだ先輩。さらに金メダルの最短距離にいる古賀を負傷させて、吉田はとても平静ではいられなかった。
加えて、小川、岡田の両エースで金を逃して暗いムードが漂う。責任の重さに「プレッシャーがなかったといえばうそになります」と正直に告白した。
「内またが決まった瞬間ですか。何も考えられませんでした。実感がなくて、これは現実なのかな、と。組めばお前が強い、と吉村先生に何度も言われていました。組んだ時、体が勝手に内またに入っているんです。すべて、周りの人たちが応援してくれたから、勝てたんだと思います」。吉田は吉村コーチの帯で試合に臨み、絶えず気持ちを奮い立たせた。
上村監督は「今大会最年少の吉田に救われた。あいつは、みんなに励みを与えてくれたよ」とたたえた。記者会見で、きつい減量から解放され「今は腹いっぱい食べたい」と言った。希望通り、勝利のあとは日本レストランでビール、すし、うどん、刺し身で祝勝会をした。
一夜明け、カップラーメン1個を朝食代わりにした。目覚めて最初に思い浮かんだのは、7月31日の71キロ級に出場する古賀の「ひざは痛くないのかな」だったという。「古賀さんが勝ったら、僕も金メダルの実感がわくでしょう」と、今度は吉田が応援に回る番だ。【赤坂厚】
[2010年2月8日18時10分]
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