ニューデリーのオーストラリア大使館前で1月27日、オーストラリアでのインド人襲撃に抗議し、警官ともみ合う学生ら=ロイター
【シンガポール=塚本和人、ニューデリー=武石英史郎】オーストラリアでインド系住民が襲撃される事件が相次ぎ、インド側は「人種差別が背景にある」として激しく反発。豪州側は事件と差別との関連を否定して沈静化に躍起だが、両国民の感情対立は深まるばかりだ。
警察当局によると、1月2日夜、メルボルン市内の公園でインド人男性(21)が出勤途中に刺殺された。12日には同市内でインドの主要宗教の一つシーク教の寺院が放火され、21、22の両日にもブリスベンでインド人のタクシー運転手らが襲われる事件が相次いで起きた。
豪州では特に2008年以降、メルボルンやシドニーなど大都市を中心にインド系住民を狙ったとみられる襲撃事件が続発。メルボルンのあるビクトリア州だけで、08年に1400人余りのインド系住民が何らかの被害を受けたとされる。多くの事件の容疑者は10〜20代の地元の少年で、金を奪って暴力を振るうケースが目立つ。現地では「カレー・バッシング」と呼ばれる。
1月2日の刺殺事件後、在豪インド人学生連盟(FISA)は声明を発表し、「インド系住民は豪州が多文化社会だというイメージを持っていたのに、見放されていると感じている」などと失望感をあらわにした。
インド国内でも、メディアが「人種差別グループによる犯行」などと大きく報道。街頭で抗議行動が起き、豪州の国旗やラッド首相の写真が焼かれた。インド政府は1月5日、留学生や豪州に渡航予定のインド人に向け、夜間に1人で行動しないようにすることなど、警戒を呼びかける異例の声明を出した。
これに対し豪州側は、警察当局者が「1月2日に発生した事件が、人種差別を動機とする証拠はない」と述べるなど差別との関連を否定。ギラード副首相も「メルボルンでもニューデリーでも、世界中で暴力事件は起きうる」と記者団に述べ、沈静化を図ろうとしたが、インド側では「保身的で無神経な態度だ」(英字紙社説)などとさらに反発が広がった。