石川県では2010年1月1日より、小中学生に防災や防犯以外の目的で携帯電話を持たせないようにする保護者の努力義務を盛り込んだ「いしかわ子ども総合条例」が施行された。09年6月の条例改正では、フィルタリング解除を行なう際の保護者の理由書提出の義務付けとともに、全国初の携帯電話所持規制が盛り込まれたことで、全国的に注目が集まっている。
このコラムでは、実際に条例改正への経緯や実施に向けての取り組みなどを石川県の関係者に取材し、シリーズでお伝えする。まずは携帯所持規制の努力義務案を提出し、条例改正に大きな役割を果たした、自由民主党石川県議会議員の宮元 陸氏にお話を伺った。(写真は宮元氏)
■条例改正の経緯
―小中学生の携帯電話所持規制についてどのくらい前から検討されていましたか? また、きっかけとなった具体的事件などはありますか?宮元:検討を始めたのは一昨年ぐらい前ですかね。法案についての個人的な思いは、「ゲーム脳」などが騒ぎになり始めた3、4年ほど前からありましたけれども。きっかけとなったのは、能登町のバット殴打事件*1や、私の住んでいる加賀市でも高校生が巻き込まれる事件*2がありました。それ以外にも出会い系サイト等の問題が出てきており、いよいよ都会だけの問題ではないと実感を持ったことでしょうか。
(*1 08年9月、石川県能登町の県立高校で、同校1年の少年(15)が同級生の男子生徒の頭をバットで殴り、重傷を負わせた事件。少年は「ブログに書き込まれた内容に腹が立ち、殺そうと思った」と供述した。)
(*2 08年8月、加賀市の風俗店で金沢市の小学校教員が現金を渡し、当時17歳の少女にわいせつ行為を行なったとして児童ポルノ禁止法違反に問われた事件。少女が中学1年生だった4年前にインターネットの出会い系サイトで知り合い、数回にわたってわいせつな行為を繰り返してきたという。)
―携帯電話の問題とされている中でどこを一番問題視していることは?
宮元:やはり出会い系サイトの問題がまずは一番大きかったんじゃないですかね。
―出会い系サイトは女の子の問題が多いと思うのですが、男子生徒に関してはいかがですか?
宮元:男ではなく、事件に巻き込まれているのは女性でしょ。特に(携帯電話の)所持率の高い高校生。
―主に女の子が問題なんですかね?
宮元:女の子の方が事件化していますから。
―最終的な目標は、女子学生の被害が減少することなんでしょうか?
宮元:女子学生の被害は氷山の一角、学校裏サイトのようないじめの問題もありますし、本来なら顔と顔とを合わせてのコミュニケーションが普通だったのに、機器を介さなければならなくなっている。対人関係がいびつになってきています。どこかで歯止めをかけていかないと。バーチャルリアリティと現実との区別が最近つかなくなっている部分は、極めて問題だと思っているわけですよ。そこを放置して人間として人と人とのつきあいができるのか。本も読まない、手紙も書かない子ども達をこのまま放置しておくと、薄っぺらい人間関係を作っていくことになるんじゃないかというのは、ものすごく心配です。
宮元:ですから出会い系サイトもありますし、基本は見知らぬ人同士がどこでもつながるということですよね。我々が小さい頃は、繁華街で遊ばなければそういった連中に会わなかったのに、「どこでもドア」のように出会えてしまう。こんな怖いことはないと思いますね。本人が非行のつもりではなくても、誘われ、引きずり込まれてしまうものだと思うので。携帯電話は、あまりに安易に直結するツールとして、非常に怖いと思いますね。
―党内の議論の中では、所持規制を条例化することのメリットとデメリットについて、どういった議論がありましたか?
宮元:自民党の中では、反対意見はあんまりなかったですね。実際、みんな議員として地元の活動を行っていく中で最近の子どもの動きを肌で感じていましたし。(条例の改正部分が)訓示的なものでもマイナス面は大きいという議論には会派の中ではなかったですね。もちろん他会派では反対意見はありました。
―県議会の中での異論は?
宮元:最初の改正条例案の段階では、携帯電話所持規制の対象に高校生も入れるつもりだったんです。ただ既に高校生は所持率が90%を超えており、規制するのはいまさら難しいと他の会派から反対を受け、ダメになった。反対会派の一つからは、強制力、拘束力が生まれ、それはいわゆる表現の自由や幸福追求権というのか良く分かりませんけど、それにも抵触するという意見もありました。ただ努力義務規定であるため、そこまでの強制力はなく法的な問題はないと。ほとんどの会派からは高校生の規定を除外した段階で、良いのではと言われました。
石川県PTA連合会も積極的にやってくれたんですよ。条例についてもものすごく賛成してくれましたし。野々市町の団体(ののいちっ子を育てる町民会議)も含めて、国の教育再生懇談会の動きや大阪府の橋下知事の発言などが条例成立時に重なり、やるタイミングとしては絶好の、ここしかないというタイミングでしたね。
次号に続く
(一般社団法人インターネットユーザー協会 代表理事 小寺信良)