無線LANの裏話
■速度がさっぱり出ない理由
無線LAN機器には54Mbpsとか11Mbps、最近では108Mbpsなんてのもありますね。 そこで質問。皆さん、そんな速度出てますか?
答えはもちろんNo。54Mどころか10Mだって怪しいもんです。それに対してメーカーは、
理論値で54Mbps。実測は当社測定で35Mbpsだった。
などと述べたりしています。どうでしょう?その「実測値」とやらの速度は出ていますでしょうか。
これも、ほとんどの人の答えはNoだと思います。私の家の無線LANも、だいたい20〜10Mbpsくらいしか出ません。ところが、ある実験をしてみると、実際に35Mbpsは出る事が分かります。
ノートPCを無線ルータやAPのすぐそばに持っていく。
多分、これなら35Mbpsくらいの速度が出てるはず。ところがAPから少しでも離すと、たちまち速度が落ちます。部屋の外では20Mbpsになり、隣の部屋では10Mbpsに、階下やドアの外では5Mbpsでも速いほう。
メーカーもあんまり多くのことを喋りませんから、無線LAN装置の場所が悪いなどといった話でうやむやになってしまいます。まぁ無線LANなんてのはこの程度のもんさ、と多くの人は思ってるような。
でも、こんなに使い勝手が良くないのには、とんでもない理由があるんです。
■電波法のせい
何かといえば、それは電波法という法律のせい。日本は世界的に見ても稀な、電波使用についてとてもウルサイ国なんです。
日本の電波法の中で無線LAN機器は、空中線電力が0.01W以下である無線局の中の、小電力データ通信システムの無線局というものに分類されています。空中線電力というのは送信出力のこと。同じ送信出力に分類されるのはPHSや特定小電力無線などがあります。0.01Wはミリワットにおきかえると10mWとなり、日本で使える無線LAN機器はすべて、10mWの出力を超えてはいけない、と法律で定められているわけです。
■弱々しい電波
アメリカの電波法では100mW、諸外国でも100mW〜1000mWが普通で、10mWなどという低い空中線電力を求めているのは日本だけ。電波が弱ければそれだけ届く距離が短くなるのは、誰でも想像できます。
弱々しい電波なのでノイズに大変弱く、パケットも届いたり届かなかったり。ちょっと距離があると、いきなり通信速度が落ちる原因はまさしくこれ。
日本のメーカーは何とか努力して、技術力でこのどうしょもない決まりを克服しようとしているのですが、電波が弱いのを他の部分で克服するのは容易ではなさそう。
■出力を上げるとどうなるか
WarDrivingで無線LAN機器をパワーアップする場合、大きくわけて二つの方法、つまりアンテナの強化と空中線電力の強化があるのですが、アンテナの強化は通信距離、出力強化は通信品質に関わってくる、と考えて良いでしょう。
アンテナだけを良くした場合、相手(乙)の電波をこちら側(甲)は難なく拾えますが、乙は普通のアンテナ内蔵APですから、甲の電波をなんとかギリギリで拾うか、それとも拾えないかのどちらかになります。
アンテナだけの強化では、甲は乙を拾えるけど、甲の電波は乙に届かない、という状況によく出会うでしょう。ぎりぎり、乙が甲の電波を拾ってくれたとしても、電界強度はかなり弱いので速度は落ちてしまいますし(10Mbpsや5Mbpsなど)、通信自体安定しないはず。
ここで空中線電力を上げると、乙にもこちらの電波がよく届きますので、乙は甲が近くに居ると錯覚して、高いレートでの通信を模索してきます(54Mbpsや48Mbpsなど)。
結局見た目の上では、アンテナが良ければ通信距離がある程度あがり、出力が上がると安定性や速度などの通信品質が向上することになるようです。
■PHSはどうか?
先の、空中線電力が0.01W以下である無線局は、免許のいらない無線局です。同じ並びにPHSがありますが、PHSは無線LANよりずっと遠くまで届いてる感じしますよね?無線LANではさっぱり届かないようなホテルのバスルームでも、なんとかアンテナ立ってますし。
どうしてPHSは遠くまで届くのか、といえば簡単で、基地局の方の空中線電力が高く、アンテナ設備が優れているから。PHSで免許がいらないのは利用者が持つ端末だけで、基地局は免許の必要な無線局なわけです。
携帯電話はどうかというと、端末も免許の必要な無線局なのですが、キャリアが免許を持っていて、端末を貸し出すという内部処理になっているため、利用者が免許を取得する必要がないんですね。
■どうしてメーカーは黙ってるの?
空中線電力が電波法のせいで低すぎる事が理由なのに、どうして日本のメーカーはその事を言わないのでしょう? 輸入発売元や海外拠点のメーカーを除き、日本のほとんどのメーカーは空中線電力や感度を非公開にしています。10mW以下、と書いてあるメーカーもありますが、製品の詳しい空中線電力は明らかにしようとしません。
どうしてなんでしょうね。まるで総務省から何かお達しが下ってるようにも受け取れます。
■TELECと技術基準適合証明
日本で使用が許されている電波使用の無線機器はすべて、総務省が扱う技術基準適合証明をパスしなければならない事になっています。TELECは実際にその証明を行う財団法人。海外から輸入された製品も、この証明を受けていなくては使用できない事になっています。が。
使用しない、または使用出来る状態にしなければ、持ってるだけとか売ったり買ったりは問題ないんですね。国内に輸入販売元を置く有名企業の製品は、この証明を得られるように、やっぱり10mWになっています。ごくたまーに秋葉とかで、この証明を取っていない機械が売られたりしてるようですけど、TELECが即座にやってくるそうです。
TELECを通らない機器は多くの海外製無線LAN製品の他に、海外製アマチュア・業務用無線機、逆輸入無線機などが一般的。送信出力オーバーもありますが、周波数帯区分の違いや電波形式の違いなどもあります。
国道沿いでよく目にする長距離トラックの違法無線もこの手の製品。