2010-02-02
棋士たちの「とめはね!」
※追記あり 最後に追記あります
ちょっと想像してみて下さい。
一人の将棋の天才少年がいたとします。
彼は子どもの頃から将棋に熱中し、街の将棋道場では敵なしです。
やがて彼は将棋のプロを目指すようになります。
彼は奨励会というプロ養成機関に入り、全国から集まった彼と同じような"天才"たちとの熾烈な競争を勝ち抜き、ついには念願のプロ棋士になります。
そして彼はプロの舞台でも順調に勝ち星を積み重ね、トッププロへの道を歩み始めました。
さて。
──そんな彼が、ある日突然、偉い人から、こんなことをいわれるのです!
「あー、ちょっと君、この扇子に揮毫してくれたまえ」
揮毫というのは、筆で字を書くこと。プロ棋士とは扇子に揮毫する機会がままある職業です。特にタイトルに挑戦するようになると、記念扇子のために必ず揮毫を求められます。
しかし、彼は将棋の天才ですが、それ以外は普通の現代っ子です。ふだん筆を握る習慣などありません。書き初めだって、学校の宿題でもない限りやりません。
そんな彼が、揮毫する? それも、扇子に? すると、どうなるのか?
こうなります。
これは、魔太郎こと渡辺明竜王が2004年に、20歳で始めて竜王に挑戦したときの記念扇子です。
※以前も紹介しましたがこの人です
この個性的すぎる字に業界は
ざわ…ざわ…
となりました。
当時の竜王だった森内は戦わずに勝ったとすら思ったことでしょう。
しかし渡辺は見事竜王位を奪取! その後、前人未踏の竜王戦6連覇という記録を打ち立て(今も更新中)棋界の第一人者として君臨するのです。
渡辺竜王は著書の中でこの扇子のことをこう振り返っています。
恥ずかしくて抹消したいくらいだ。
ああ、そんなものをネットで紹介してしまってゴメンなさい!
フォローになるか分かりませんが、竜王の名誉のために現在の彼の揮毫も紹介しておきます。
俺は書道の専門的なことまでは分かりませんが、一般的には十分上手の部類に入ると思います。
渡辺竜王は何事も努力によって上達するということを身をもって教えてくれてるのですね。
さて、このような棋士たちの揮毫扇子の写真だけを集めたという、普通の人にはたぶん意味が分からない素晴らしい本が出版されてるのです。その名もズバリ「棋士と扇子」。
- 作者: 山田史生
- 出版社/メーカー: 里文出版
- 発売日: 2002/06
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本書の中から、面白いモノをいくつか紹介しましょう。
・今どきの若者
まずは、先ほどの渡辺竜王と同じ、筆で字を書く習慣のない今どきの若者が必要に迫られて書いたと思われる揮毫です。
千葉幸夫 四段(当時)の素直すぎる「素直」と、佐々木慎 四段(当時)の「闘魂」
まあ、実際俺が今、筆で扇子に字を書けといわれればやっぱりこんな感じになると思うので、笑っちゃ悪いんですけどね。
次は、字自体の上手い下手ではなく、合わせて読むと味わい深い揮毫です。
みんな大好き林葉直子さんの「気楽に一局」
と
林葉さんに「気楽に一局」といわれて、只楽しければいいやと一局指し(挿し?)ちゃった中原名人。まあ一局だけじゃないですけどね。まさに万事塞翁が馬ですね。
(意味が分からない人は「中原誠 林葉直子 突撃」でググって下さい)
・それ、絶対わざとですよね?
ここまで見てきて気づいてると思いますが、揮毫というのは横書きでも、普通とは逆に右から左に字を読ませます。
それを利用してネタに走る人もいるわけですね。
明らかなツッコミ待ちです。
竜王というのは一応名人を凌ぐ棋界の最高位なんですが、その座にあってこれをやるのは偉いですね。
・達筆!
最後にお口直し(?)に、本当に上手な人たちの揮毫も紹介します。
男性棋士よりも女流の方が字が上手い傾向があるのですが、中でも書道の師範を務めるほどの腕前の方お二人です。
高群佐知子 女流の「自琢」
いかにも書という感じでカッコイイですね。「自分を磨く」という意味だそうです。
石橋幸緒 女流の「善戦者不怒」──よく戦う者怒らず。
俺のような素人にも分かりやすいきれいな字で、言葉も良いですね。ただ石橋さんは女流独立問題で、ものすごいブチキレ方したことがありましたけど。。。。
本書では他にも、羽生善治が18歳の初扇子(字の腕前はムニャムニャ)から、自己流ながらだんだんと上達してゆき、カッコイイ字を書くようになる様子が見て取れたり、大山康晴や升田幸三、坂田三吉といった伝説の名棋士の揮毫が見れたりと、見所が満載です。
若干手に入りづらくなってますが、古本屋やAmazonのマケプレでまあまあ見つかるので、棋士の人間的魅力(笑)に興味のある俺のようなネタ系将棋ファンにとってはマスト・バイ・アイテムですよ。
<追記>
以下のようなブコメをいただきました。
確かに気になるでしょう。
本書にも加藤扇子の写真は載ってますが、以前、俺がネットで拾った扇子以上に素晴らしい加藤九段の書を加えて紹介させていただきます。
豪快すぎる筆さばきで「棒銀」。
最高です!
加藤九段は「棒銀一筋」といわれるほど棒銀を偏愛してまして、解説で対局中の棋士が別の戦法を選んだら「なぜ棒銀を指さないのか分からない」といったり、自分で棒銀を指して負けたときも「負けたのは私が弱いからで、棒銀のせいではない」みたいな男泣きをさそうことをいったりするほどです*1。
さすが加藤九段、書にも上手い下手を超越した魂を込めるのですね。
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