■NHK、Canon、警視庁……
中の様子をリポートする前に、このイベントの宣伝内容についておさらいしておきましょう。1月27日に本紙がお伝えした通り、ヨハン早稲田キリスト教会による第1回の「The★大学生活・就職進路セミナー」は1月24日に開催されています。このときの宣伝チラシには、講師陣として、以下の企業名が並んでいました。
NHK/Samsung/Canon/HITACHI/Mitsubishi/Softbank/KDDI………
このほかに、「公認会計士」「IT起業家」といった職業名も並んでいました。第2回となる2月7日のセミナーでは、宣伝チラシに以下の企業名が並んでいます。
NHK/Samsung/Canon/HITACHI/Morgan Stanley/KDDI/警視庁……
え? 警視庁?
宣伝チラシには、宗教勧誘である旨は書かれていません。キリスト教会の主催だといっても、単なる就職セミナーであれば、警視庁職員が警視庁の肩書を使って宗教勧誘をしていることにはらないし、とくだん問題ないのかもしれません。しかし実際のセミナーに参加してみると……
■案の定、宗教勧誘でした
会場は、ヨハンキリスト教会内の2階。3階で「NHK国際アナウンサー」を名乗る韓国人男性がスピーチし、その内容が2階のモニターで大写しになっています。それが終わると、特段の合図もなくセミナー開始。
会場内の天井から「IT 技術職」「起業 ベンチャー」「営業 事務職」「公務員」「教員」「国家資格」といったプレートがぶら下げられ、それぞれのブースに、各ジャンルの現職にある信者と思しき担当者が座っています。ここで個別に話をしてくれるという仕組み。ブースは、このほかに「総合進路相談」「キャリアカウンセリング」「大学生活全般」など多彩です。セミナーというより、個別相談会ですね。
最も人だかりができていた「総合進路相談」ブースで話を聞いてみました。講師は、「就職コンサルタント」を名乗る会社経営者の韓国人男性です。
「ボーナスもらって海外旅行行くんだとか、そりゃあんまりインチキのことじゃないの? ぜ~んぶ自分ばかり考えてるじゃない。いま日本は平和ボケだ。そうだろ? いま日本がNPOとかNGOでお金寄付しても指さされるのは何? インチキだからということでしょ? 社会から。悪いイメージをどんどんどんどん変えていかなきゃいけない」
就職セミナーで、なぜか日本がインチキ呼ばわりされています。
「政府に任す? なんか団体に任す? いいえ、私がやらなきゃいけない。という時に、みなさんのビジョンにチャレンジするんだ。あなたのビジョン、何? お医者さんになる? お医者さんになって何するの。エンジニアになる? エンジニアになって何するの。タクシー運転手になって何するの。そういうことを明確に考えて。そういうことを、ユースコスタの青木先生とか、そういことを喋る」
ん? ユースコスタ? 青木先生?
信者ゲッツ! |
講師が言う「後ろのブース」で、そのユースコスタとやらのチラシを配っていました。ヨハン早稲田キリスト教会が主催する「2010 Youth Winter Camp」のことでした。3月1~4日までの4日間、御殿場市内で行われる合宿式のセミナーで、プログラムを見ると「特別講義」のほかに「Bible」「礼拝」といったスケジュールも記載されています。明らかな宗教合宿です。チラシの「Guest」という欄に「青木秀雄(MKタクシー経営者)」とありました。「青木先生」というのは、この人のことのようです。
「就職セミナー」ではないとまでは言いませんが、少なくとも「就職セミナー」とのうたい文句で集まった学生に対して宗教勧誘を行っていることは明らかです。
■警視庁の現職警官までもが
とは言え、話を聞いたのは「総合進路相談」のブース。もしかしたら「総合」だから観念論的な話になってしまうだけかもしれません。特定の職種のブースに行けば、もうちょっとマシかと思い、「公務員」のブースへ。そこに座っていたのは、Sと名乗る現役警察官(警視庁の交通関係の部署らしい)。
「公務員は、給料はちゃんと出る。それがいちばん。あと、土日は休み。きちきちっと休みが取れる。警察の場合も、意外と、事件とか入らなければ、定時で帰れるし。代休っていうのはたまりにくい。刑事さんだとそうもいかないけど、一回の事件が終わればまとめて休みを取れる」
現役公務員としての体験談を語ってくれています。しかし、ほっとしたのもつかの間。
「仕事して行く中で、聖書の勉強とか、仕事に意外と生きる。特に今の時代、人間関係が難しいじゃないですか。その面で助けになりますね。うちの会社は(クリスチャンは)あまりいないです。だけど、最近うつ病とかいるじゃないですか。そういう風になりそうだなあという人は、そうなる前に、(教会に)連れてこようとか思いますね。それで、こんどコスタとかありますので、できればこういうのに参加してみましょう。もっと成功した人の話も聞けるんで、機会があえば来ていただいて。よろしくお願いします」
結局、勧誘です。
■電凸したら、教会側はウソの説明
潜入取材という都合上、教会関係者がひしめく会場でほかの参加者の声まで取材することはできませんでした。見たところ、100人くらいはゆうに超えていそうな参加者数でした。韓国人らしき人も多く、すでにこの教会に通っている学生が中心のような印象でした。しかし高田馬場駅でイベント宣伝のチラシ配りが行われているわけですから、それと知らずにこの会場に来てしまった学生がいたら、さぞかしドン引きだったのではないでしょうか。いや、ドン引きするなら、まだマシです。間違って入信してしまう学生がいないか、そのことの方が心配になります。
さて、イベント終了後、どう考えても宗教勧誘でしかないこのイベントを問題とは思わないのか、ヨハン早稲田キリスト教会に電話して尋ねてみることにしました。私は、特定の団体をカルトであるかどうか判断する際、「部外者を巻き込む内部の問題についてウソをつくかどうか」を、その指標の一つにしています。その点を確かめるため、あえて、「自分ではセミナーの中身を見ておらず、参加した人から聞いたのだが」という設定で質問してみました。
─今日の就職セミナーについてお聞きしたいんですが、広報担当の方はいらっしゃいますか。
女性「いまいないので、また折り返しするようにしましょうか?」
─ではお願いします。電話番号は***-****-****です。フリーライターの藤倉といいます。
女性「ご用件は?」
─今日、そちらの教会で開かれていた就職進路セミナーなんですが、実際には教会の勧誘活動ではないかと聞いたので、実際どうなのか聞きたくて……。
男性(突然チェンジ)「どういうことですか」
─今日、そちらで就職進路セミナーが行われていたんですが、就職進路セミナーとして宣伝されていたようなんですが、実際には、宗教勧誘だったと。
男性「誰から聞いたんですか」
─それは申し上げられないです。
男性「それでは教えられないです」
─なるほど。就職進路セミナーと言っておきながら実際には宗教の勧誘だったと聞いているんですが、その事実関係は?
男性「関係ないです」
─関係ないというのは?
男性「就職のアドバイスを、ボランティアの方で行っているという……」
─なるほどなるほど。中で「Youth Winter Camp」への勧誘を行っていたと聞いるんですが。
男性「やってないです」
─そうですか。わかりました。
「Youth Winter Camp」への勧誘が行われていたことは、すでにリポートしたとおり。セミナーの講師たちが実際に勧めていましたから、この男性がウソをついていることは明らかです。せっかくなので、これがウソである証拠写真も掲載します。会場では、「Youth Winter Camp」の申し込み専用ブースまで設置して勧誘しており、ご丁寧に、御殿場市の会場への格安バスチケットまで案内していました。
今回は、私がセミナーには参加していない風を装うことで、いわば相手が比較的ウソをつきやすい条件を提供して試してみたわけです。彼がウソをついたのは、半分は私のせいなので、彼をあまり責める気にはなりません。
ただ、このちょっとズルイ取材方法によって、この教会の性格が一つ確認できました。ヨハン早稲田キリスト教会は、実態を知らない人に対しては、“あわよくば意図的に事実を隠そうと試みる団体”である、ということです。
■職歴詐称の自称“大学教授”も
この就職セミナーでは、日本の大学教授を名乗る2人の韓国人が「大学生活全般」というブースに講師として参加していました。立場上、責任が重大だと思いますので、肩書とフルネームを掲載します。以下の2名です(会場での配布資料ママ)。
(名前)文載皓、(会社名)明治大学/富士常葉大学、(職歴)大学教授
(名前)朴進午、(会社名)東京大学、(職歴)大学教授
文載皓(ムン・チェホ)氏は、明治大学のサイト内にある博士学位論文の著者名では見つかりますが、教授としては出てきません。併記されている富士常葉大学のサイトには掲載されていますが、「教授」ではなく「准教授」です。プロフィールによると、明治大学では非常勤講師という身分です。ほかの大学で、これまで「教授」を務めた形跡は見当たりません。
朴進午(パク・ジンオ)氏も同様です。彼は確かに東京大学に所属していますが、「教授」ではありません。「准教授」です。プロフィールによると、やはり過去に他大学で「教授」であった形跡もありません。
もっとも、これはきわめて瑣末な問題です。「就職」をエサに学生を誘い出して勧誘するような宗教イベントに大学の先生が荷担していれば、それが教授であるか准教授でるかなど無関係に、等しく責任重大でしょう。
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